森林出現が環境を破壊?デボン紀生物大絶滅―「最古の木」の化石探求(下)
デボン紀後期の世界地図における初期森林の初期進化パターン
今日、森林は(南極大陸をのぞいた)全ての大陸で見られる。それでは、森林はデボン紀後期のはじまり頃(=3億8500万年前)具体的に「どこから」はじまり、そしてその終わり頃(約3億5900万年前)までに「どのように」分布していったのだろうか? この二つの問いに答えるには、樹木の化石記録を世界地図においてチェックする必要がある。もちろん現在の見慣れたマップではなく、その当時 ── デボン紀後期 ── のものが必要だ。 上の「デボン紀後期の世界図」を、是非ご覧になっていただきたい。(初めて見る方は1分間くらいこの地図に見入ってもらいたい。)現在の大陸の位置と海洋の容(かたち)とはまるで異なる。太平洋や大西洋、ユーラシア大陸やヒマラヤ山脈など、その当時存在していなかった。日本列島の影も形も見られない(海の底だった)。そして、現在の北米大陸の大部分が(斜めに傾いて)なんと南半球に位置していた。グリーンランド(大陸だ)が、北米の東海岸と地続きに太古の赤道の真上にあった。 閑話休題。太古の世界地図の変遷は、以前紹介したアルフレッド・ウェゲナーによってサイエンス的に構築され、1960年代になって(ようやく)セオリーとしてさまざまなデータが提出された「大陸移動説」にもとづく。(見逃した方はこちらの二つの記事を参照:上&下)。 ―21世紀版大陸移動説(上)生前に研究が認められなかったウェゲナーの悲劇: ―21世紀版大陸移動説(下)まだまだ謎が…地球内奥に潜む未知なるパワー源: デボン紀中期の終わり頃(3億8千万年前頃)までに、北米東海岸沿い(そして中国の一部)において、最古の木の記録は今のところ知られている。 そしてデボン紀後期のファメニアン期と呼ばれる最終期に入ると、太古の大陸間を越えてシベリア大陸や中国にあたる地域、南米やアフリカ、オーストラリア、南極大陸によって形成されていたスーパー大陸「ゴンドワナ」(のかなり広範囲)まで、世界規模に進出していたようだ(上の地図参照)。 デボン紀を通して、このゴンドワナ大陸は、北米 ── グリーンランド ── 西ヨーロッパの一部等からなる「ユーラメリカ大陸(Euramerica)」(*注)と、海を隔てて分かれていたと考えられている。そのため樹木そのものや種(たね)が海流にのって南へと運ばれてきたのだろう。(現在の植物の種や個体にもこうした現象が知られている。)そして、予断だがこの二つの大陸がすぐ後の古生代の終わりの時代(石炭紀とペルム紀)にかけて衝突し、「パンゲア」という超スーパー大陸が誕生することになる。 (*注):デボン紀に存在したと考えられるスーパー大陸のひとつ。現在の北米大陸、グリーンランド、西及び北ヨーロッパ、ロシアの一部などによって形成されていた。この大陸の大部分は、デボン紀当時、赤道をまたいで南半球に位置していた。(こちらのサイトに英語の説明あり() 最古の樹木は(前回紹介したように)ニューヨーク州のGilboa Parkから知られているので、当時のユーラメリカ大陸中部(=現在の北米の東海岸)から、森林の元(オリジン)ははじまったのかもしれない。(しかし最近の研究によると、樹木の起源は中国西部の可能性もある。この件は次回の記事で紹介してみたい。) それでは、最初の森林はどのような環境で誕生し、初期の適応放散が起きたのだろうか? このような考察をする時、太古の世界地図は非常に便利だ。(もう一度、上の地図をあらためてみてみよう。) 北米東海岸(それとも中国)が起源だとすると、初期の樹木は赤道近くの「かなり温暖な気候」のもとではじまったことが推測できる。おそらく「湿気をたっぷり含んだ」空気が広がる地域で、樹木と森林の初期進化ははじまったはずだ。現生の樹木と比べ、デボン紀後期のものの「水分維持システム」は、それほど発達(進化)していなかったと断定できるからだ。