ロシアに残ると徴兵の恐れ、移住先からは「出て行け」の声。母国を去ったスケーターたちの苦悩
「スケーターはスケーターだ。デッキに乗っていれば国籍は関係ない」
翌日の昼過ぎ、広場に向かうとロングボードを楽しむ人の姿を見かけた。男性だけでなく女性の姿もある。セルビア人もロシア人も混ざり、簡単な英語でコミュニケーションを図っている。 「スケーターはスケーターだ。デッキ(板)に乗っていれば国籍は関係ない。それは疑いようのないことだ」 地元の青年はそう言いながら、ロシア人の見せるトリックに目を細める。 その寛容さに答えるようなかたちだろうか。郊外にあるスケートパークの一部が老朽化しており、その修復にロシアのスケーターたちが資金を出し合ったという。 ロシアのスケーターの一人は言った。 「セルビアの人たちには親切にしてもらって感謝している。彼らは兄弟のようなものですよ」 私がこのあいだまでウクライナのハルキウでスケボーに乗る青年たちを撮影していたと伝えると「彼らは危なくないのか?」とロシアのスケーターたちは真剣に心配をしている。 「どんな状況になっても彼らにはスケボーが必要なんだろうな」 「それこそがスケーターだ。さすがだな」と敬意を払っている。 戦争前はロシアのスケーターもウクライナに来ていたらしいね、と私が言うと、「そりゃそうだ。ハルキウはロシアの国境に近いだろ? あの辺は国境をまたがって親戚や家族がいるんだよ。もちろん友達だっているのが当たり前さ」と彼らは答えた。
「戦争が終わらない限り、ロシアに戻るつもりはない」
シベリア出身のアンドレイ(32歳)は、地元の少年たちにスケボーのオーリー(ジャンプ)を教えていた。膝をつき、子どもにもわかるように簡単な英語を使う。 じつはアンドレイはここ数年、仕事が忙しくスケボーから離れていたのだが、セルビアにきたことがきっかけで再開した。 「このコミュニティが気に入ってね。仲間もできたから」と子どもたちに目を向ける。 だが、この即席のスケボー教室も長くは続かないだろう。彼は夏にはセルビアを出て、ほかの国へ移動することを考えている。 「戦争が終わらない限り、故郷に戻るつもりはない」と彼は言った。