粋人の先代から受け継がれる、洒脱な最中。【今日の逸品】
〈御菓子処 さゝま〉松葉最中
カーサ ブルータスの人気企画「10選」シリーズから、こだわりの逸品をジャンルレスに日替わりでご紹介します。 【フォトギャラリーを見る】 季節ごとに掛け換えられる、趣ある暖簾が客を出迎える〈御菓子処 さゝま〉。書店街の神田駿河台下で、昭和6年に和菓子店として創業。よく手入れされた引き戸や三和土など、変わらぬ佇まいが駿河台下の景色に風情をもたらしている。「大事にしているのは“なるべく変えない”こと。うちはずっと通ってくれているお客さんが多いから」と二代目当主・笹間芳彦さん。その言葉通り、菓子の製法から味わい、包装紙や化粧箱といった意匠まで、その多くを先代から大切に受け継いでいる。 茶会で振る舞う上生菓子の名店として知られているが、創業時の昭和6年から店の看板菓子として愛されているのが「松葉最中」。1辺がほどの小ぶりさで、中央に松葉が刻印され、なんとも品のいい姿。少し丸みを帯びた四角形は、実は三味線の「胴」を模したもの。端唄の一つである「うた沢」を習っていた先代が、唄に欠かせない三味線に因んで考案した。「うた沢」の流派には寅派と芝派の2つあり、寅派であった先代は、一派の紋である松葉を中央にあしらったのだとか。 中身は北海道産えりも小豆で作るこし餡。ねっとりと、だがすーっと濁りなく消えていく後口は、〈さゝま〉の餡の真骨頂だ。箱にお行儀よく収まる美しさ、そして2口ほどでいただけるサイズ感といい、ご進物に重宝されるのも納得がいく。趣味人だった先代の美意識が生んだ、神田の銘菓だ。 公式サイト
photo_Junichi Kusaka text_Yoko Fujimori