通算ゴール1位となった大久保は、なぜゴールを量産できるのか?
大久保嘉人(33)がポツリと漏らした言葉がある。それは周囲の笑いを誘う自虐的なジョークでもあり、川崎フロンターレでの日々に対する充実感が込められたものでもあった。 「ずっとフロンターレにおったら、ホント、どうなっていたんやろうね」 31歳になる2013シーズンに川崎へ移籍してきた大久保は、3年あまりの間に70ものゴールを量産。前人未到となる3年連続の得点王を獲得し、通算ゴール数も159に伸ばして、開幕前に後塵を拝していた佐藤寿人 (サンフレッチェ広島)と中山雅史(アスルクラロ沼津)を抜いて歴代1位に浮上した。 川崎における出場試合数が103だから、実に1.47試合に1ゴールを決めている計算になる。セレッソ大阪およびヴィッセル神戸でプレーした約10年間が合計241試合で89ゴール、2.71試合に1ゴールだったから、移籍を機に驚くべき変貌ぶりを遂げていることがわかる。 10日にホームの等々力陸上競技場で行われたサガン鳥栖戦でも、両チームともに無得点で迎えた後半49分のラストワンプレーで、劇的な決勝ゴールを豪快なヘディングで叩き込んでいる。 キャプテンのMF中村憲剛をして「ザ・ストライカー」と言わしめた決定力。6月には34歳になる大久保は、なぜゴールを量産し続けることができるのか。 ひとつは攻撃的なスタイルを伝統とする川崎との相性のよさとなる。 「オレは何も変わっていないですよ」と無邪気に笑う大久保自身から、こんな言葉を聞いたことがある。 「変わったのはチーム。フロンターレは止まりながらやっているからね。あまり強くないチームは『裏へ走れ』とか、すべて全力でダッシュしないといけない。サッカーの違いだと思います。いままでで一番楽しいですね」 大久保が口にしたキーワード「止まりながら」とは何か。司令塔の中村がわかりやすく説明してくれた。 「止まって、ゆっくりプレーしたほうがミスは出ない。前(のチーム)はスピードを上げすぎているところがあって、そこでミスが多くなってしまったと(大久保)嘉人自身も認めていましたからね。他のことをやりすぎて、力を出せなかったのかなと。そこはウチにきてすごく変わったところだと思います。 嘉人は基本的に『横』と『後ろ』は考えない男ですからね。相手にとってはすごく嫌な存在だろうし、それで『前』がなくなったら止まって僕に一度戻せ、ということ。そこから動き直して、ボールを渡せばまた『前』へ行っちゃう。それでいいし、好きにやってくださいという感じですよ」 J1とJ2を行き来していたC大阪、J1の中位から下位をさまよっていた神戸は、ともに堅守速攻スタイルで戦わざるを得なかった。後者ではチーム事情から、中盤でプレーしたこともある。 ストライカーの仕事以外にも、さまざまなものを託されていたからだろう。川崎移籍が決まった2013年1月に、大久保はこんな言葉を残してもいる。 「いままでは歯痒さがあったけど、ここでは他のことは考えなくてもいい。自分のプレーに専念して、久々に相手のDFと駆け引きしながらガンガンやりたいね」