通算ゴール1位となった大久保は、なぜゴールを量産できるのか?
日本代表監督時代のジーコは、20歳の大久保を代表に抜擢した2003年5月に「日本の未来を背負っていく逸材」と絶賛している。170cm、73kgのボディに搭載された稀有な得点感覚が、10年の歳月を経て、川崎という環境のなかで一気に解放されているわけだ。 川崎を率いる風間八宏監督が掲げる独自のサッカー観も、くすぶっていた大久保の潜在能力を開放させている。例えば相手との1対1。それまではパスを受けてから仕掛けていた習慣を、まず仕掛けて相手のマークを外してからパスをもらえと修正させられた。 「相手に突っ掛けてから走る。そうすると相手は後ろ向きに、受け身になるから、その瞬間にマークを外す。そのうえでボールを足元に出してもらうと、すんなりとパワーも使わずに裏を取れるんですよ」 新しい技術を覚えているサッカー少年のように目を輝かせる大久保は、中村やU‐23日本代表の大島僚太を中心とする創造力あふれる中盤が、点取り屋としての感性を取り戻させてくれたと感謝する。 「欲しいと思ったパスがゴール前で実際に来たときに、『よっしゃ』とか『来たぁ』といった感覚がお腹の底あたりから久しぶりにわいて出てくるようになった。その直後に、ループなどシュートの選択肢がいろいろと浮かんでくる。ミドルにしてもそれまではまったく入らなかったのに、シュートを打つ前に弾道をイメージすると、ホントにその通りに飛んでいくんですよ」 C大阪や神戸ではチャンスそのものが少なかったから、ゴールを外すたびに自分自身への怒りがこみあげてきた。その代償として不必要なカードをもらうことも少なくなかった。翻って川崎は、すぐにチャンスをお膳立てしてくれる。 鳥栖のU‐23日本代表候補、MF鎌田大地は、前述の試合後、大久保をこう表現していた。 「それまでほとんど消えていて、あまり怖さは感じなかったのに」 消えるとは、要は試合の流れに影響のない程度に上手く力を抜いていること。決定的な仕事を完遂するために、パワーを溜めているとも言える。中村も苦笑いしながら、こう語ったことがある。 「ポツンとピッチの端っこを歩いたりして、上手くサボっているときもありますからね」 風間監督も大久保の独特の感性を「速い」と表現する。 「ポイントがわかる速さ。それが全然違う。動体視力を含めて、目も違うと思いますよ」 勝負どころを瞬時に見極める、動物的なカンとでも表現すべきか。大久保の野性的な一面を象徴するエピソードとして、昨年6月27日の鹿島アントラーズ戦が挙げられる。