米金利はさらに上がる? カギ握る「自然利子率」ジャクソンホール会議で言及はあるか
米長期金利が高水準で推移する中、「自然利子率」という言葉が市場で注目を集めています。なぜこの概念が重要なのでしょうか。第一生命経済研究所・藤代宏一主任エコノミストに解説してもらいました。 【写真】5月FOMCが「最後の利上げ」となるのか? 米国の経済指標を見てみると……
各国の中央銀行が参照する自然利子率
米国の長期金利が4%台半ばに接近しています。8月21日の10年金利は4.35%と、約15年ぶりの高水準にあります。その基本的な背景は長引くインフレとそれに伴う(政策金利の)利上げですが、最近の上昇に拍車をかけた出来事として、ニューヨーク連銀(アメリカ合衆国に12行ある連邦準備銀行の一つ、日銀で言うところの〇〇支店)のスタッフがブログで「そもそも論」を展開したことがあります。 そのテーマは自然利子率(R*:アールスター、実質均衡金利ともいう)という聞き慣れない言葉についてです。自然利子率とは経済活動(或いはインフレ)に対して引き締め的にも緩和的にも作用しない中立的な実質金利の水準のことで、それは中長期的な人口動態や生産性などから算出されます。市場で取り引きされ、日々価格や利回りが公表されている10年国債金利などと違って可視的かつリアルタイムに把握することは困難な概念で、推計方法の違いによって数値が大きく異なるという特徴(脆さ)があります。 ではなぜそれが重要かと言うと、それは世界中の中央銀行が政策運営にあたって参照しているからです。自然利子率を基準に、自らの金融政策が引き締め的か緩和的かを判断し、景気や物価のコントロールが最適となるよう努めているからです。
自然利子率上昇の可能性を示唆
現在FRB(連邦準備制度理事会)は、インフレを加速も減速もさせない「名目」中立金利を2.5%と見積もっています。これは「0.5%程度と推計されている自然利子率に物価目標の2%を足したものである」というのが、FRBが示す暗黙的な公式見解です。ゆえにFRBは2.5%超の政策金利を以って「金融引き締め」としています。しかしながら今回NY連銀のスタッフが発表したペーパーは、結論こそ「自然利子率は0.5%程度で大きな変化はない可能性が高い」というものでしたが、「示唆」としてパンデミック発生前後の経済構造の変化などから自然利子率が上昇している可能性に言及がありました。 仮にFOMC(連邦公開市場委員会)参加者が「自然利子率が上昇している」「想定していた以上に実際は高かった」との判断に傾くと、中立金利は3%や4%などへと引き上げられる可能性があります。もしそういった議論がFRB中枢メンバーから提起されれば、それは政策金利がさらに引き上げられる、あるいは高い状態がより長く続くことを意味します。同時にそれは現時点で2024年半ばまでに利下げが実施されるとの現在の市場参加者の予想に修正を迫るものですから、そうした議論が沸く中で長期金利が上昇するのは当然と言えば当然でしょう。 その点、目先の重要イベントは8月24~26日にかけてカンザスシティ連銀が主催するジャクソンホール・シンポジウムです。シンポジウムにおいてパウエル議長が自然利子率上昇の可能性に言及すれば、それは大きな衝撃となるでしょう。
---------------------- ※本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所経済調査部が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。