最古人類記録が変わる?新発見の化石が開けたパンドラー足跡化石の謎(下)
生物の生きた証、化石の中でも「足跡化石」は非常に多く発見され、たくさんの研究の可能性を与える貴重な化石だということを、古生物学者の池尻武仁博士(米国アラバマ自然史博物館客員研究員・アラバマ大地質科学部講師)が、2回にわたり、執筆しました。 そして先日、二足歩行の生体とみられる新たな足跡化石が、多数ギリシャのクレタ島で発見されたという研究結果が発表されました。人類の進化史を変えるかもしれない、どんな驚きの内容だったのか、池尻博士が報告します。 ----------
570万年前の足跡化石
前回と前々回、二回に分けて「生痕化石」と特に「足跡化石」の大まかな概要について、あえて紹介してみた。全てはとりあげる「人類の進化」を考察する上で、非常に興味深い研究のためだという点を、是非、ご了承いただきたい。 「足跡化石の研究」としていきなり紹介しては、「何だ、ただの足跡か」と、シンプルに素通りされる読者の方がいるのではないだろうか。以前に紹介した、例えば「ミイラ化恐竜の骨格」などと比べて、見劣りする(第一)印象を与えないだろうか?(私の考えすぎかもしれない。) とりあえず足跡化石の重要性について、いくらかでも気づいてもらえたら幸いだ。 そして今回取り上げるギリシャ・クレタ島において発見されたもの。「ただの足跡化石」とあなどることなかれ。今月はじめ頃、Gierlinski等(2017)は、何と約570万年前の砂岩層から、もしかすると「最古の人類」とつながりのある「多数の足跡化石」の研究を発表した。 -Gierlinski, G. D., G. Niedzwiedzki, et al. (2017: in press)"Possible hominin footprints from the late Miocene (c. 5.7 Ma) of Crete?" Proceedings of the Geologists' Association. (化石現場の様子は、The ScienceDailyのサイトを通してのぞくことができる。6m×21mの岩石の表面に50個ほどの足跡が見られる。興味のある方はこちらをチェックしてみてはいかがだろうか: )。 コピーライトの関係でこの足跡の写真を、この記事に載せられないのが残念だ。この研究論文には、見事な足跡化石の写真が多数載っている。是非、論文のリンクを通して、直接見ていただきたい。特に「Fig. 8」と「Fig. 9」の足跡化石の写真は、実に見事なものだ。私はかなり魅入ってしまったが、読者の方はどのような印象を持たれるだろうか? まるでつい昨夜、何者かが海岸沿いの砂浜を歩いて残していったような趣き。魚市場に横たわる大きなマグロでさえ、この足跡化石の新鮮さにはかなわないかもしれない。 一般に人類(=我々)の足は、その形が独特で、他の霊長類や哺乳類のものとはっきり異なると考えられている。しばらくの間、自分の足の裏などかまう暇などなかった方。改めてしげしげと自分の足を見つめてみるのも一興かもしれない。 非常に縦長で真ん中がややくびれた、ひょうたん型の輪郭が真っ先に目に飛び込んでくるはずだ。親指の付け根には大きな土ふまずがある。そして全ての指が前方をむいている形態も、全ての人が備えているはずだ。こうした足の裏のデザインは、大きな頭や自由に使える腕などとともに、霊長類の進化上、ユニークな二足直立歩行を我々にもたらしてくれた、重要なものの一つだ。 今、電車の中でこの記事を読んでくれている方。または、その他諸々の諸事情により自分の足を直接「観察できない」という方。念のために足の裏の写真を次に用意してみた。長大な生物進化の香りを、感じとっていただけるだろうか? ※Gierlinskiは正しくはnの上に’が付きますが、システム環境でnで表記されています。 ※Niedzwiedzkiは正しくはzの上に’が付きますが、システム環境でzで表記されています。