イラストレーター三好愛さん初絵本「ゆめがきました」インタビュー「眠るのが苦手な子も、夢を楽しみながら眠りについて」
馴れ合いの中で、夢が来るのを待ってもいい
――「できれば曖昧さを残したい、断定はしたくない」という考え方は、三好さんのもとからの性格に由来するのでしょうか。 もとから優柔不断だというのも関係しているとは思いますが、昔からずっと「みんながみんな、自分発信ですべてを決めなくてもいい」という気持ちはあります。 例えば、「子どもの自発性や自主性を重んじます」という教育方針を強く掲げる保育園を見たりすると、なんか少しだけとまどっちゃうんですよね。 そんなに無理に自分を決めようとしなくても、環境との馴れ合いの中で、自分というものをゆっくり見つけていけばいいんじゃないかな、と思っています。 だから夢違いになりますけど、「将来の夢」なんかも急いで自発的に決めなくていい。夢が向こうから来るのを待っていてもいいんだよ、と絵本の「ゆめ」を通じて子どもたちに伝えたいな、とも思いました。 ――カラフルな色遣いも印象的です。夜見る夢のお話ですが、後半はパレードのような賑やかさもありますね。 昔はモノトーンの色調が多かったのですが、色を多く使うようになってから仕事の幅も広がったかもしれません。星野智幸さんの新聞連載小説『ひとでなし』の挿絵を1年間、描き続けた影響は大きいですね。 『ひとでなし』は説明するのが難しい小説ですが、すごく不思議な幻想を超リアルに描くような内容だったので、1年かけて自分の絵の色遣いも自然と明るくなっていったのだと思います。 ――お祭りのような賑やかな夜が終わって、静かに朝が来るシーンの美しさは格別です。 眠りから覚めるときって、夢の余韻がちょっとだけ残っていて、でも朝が押し寄せてくる感じがありますよね。この見開きはそんな感覚を再現できたらな、と思いながら描きました。
「好き」も「わからない」も受け止めて描き続けたい
――ちなみに、三好さんが子どものときに好きだった絵本は? 『ムッシュ・ムニエルとおつきさま』(佐々木マキ/絵本館)のちょっとシュールな面白さが大好きでした。あとは『からすのパン屋さん』(かこさとし/偕成社)も楽しく読んだ記憶がありますね。 うちの場合は母親が読み聞かせをそんなにしなかったので、わりと早くから自分ひとりで本を読むようになったんですね。だから今、自分が親になって初めて読むことになった名作絵本が実はたくさんあることを知りました。 せなけいこさんの『ねないこだれだ』(福音館書店)や『おばけのてんぷら』(福音館書店)を読んでみたら、「絵本ってこんなにシュールでもいいんだ」と驚かされましたし、「ぐりとぐら」(中川李枝子、山脇百合子/福音館書店)シリーズの『ぐりとぐらのかいすいよく』などは意外と読んでいなかったのですが、あらためて読むと結構複雑な物語だったりするんですよね。 でも子どもの頃の自分が読んでいたら、「これは変だな」とは多分思わなかっただろうし、もっと素直に感じていたように思うんです。大人になった今読んでいるからこそ、視野がちょっと狭くなっているのかもしれない。最近、子どもと一緒に絵本を読んでいるとそんな風にも思います。 ――イラストレーター、エッセイスト、そして絵本作家と活動の幅をどんどん広げていますが、これから挑戦したいことはありますか。 絵本はもうちょっと続けていきたいなと思っています。次はお話を他の作家さんに書いてもらって、私が絵を担当する、という作り方もしてみたいです。装画のお仕事をたくさんやっているせいか、文章に対して絵を描くことは性に合っている気がします。 小説でも歌でも、イラストを描く仕事って対象の創作物とのコミュニケーションだと思うんです。そこに込められた表現をきちんと受け止めて、「好きだな」と思ったり「わからないな」と思ったり、まずは受け手としての実感を確かめたうえで絵を描きたい。 基本的には流れに身を任せする受け身なタイプなのですが、そこは今後も大事にしていきたいことです。 それと、私自身、佐々木マキさんが装画を描いていたことがきっかけで、大人になってから村上春樹さんの小説を読むようになったりしました。そんな風に『ゆめがきました』を読んだ子どもたちが、成長してから私が装画を担当した小説や本を手に取ってくれたらとてもうれしいなと思います。 <三好 愛(みよし・あい)さんプロフィール> イラストレーター 1986年、東京都生まれ。ことばから着想を得る不思議な世界観のイラストが人気を集め、数多くの本の装画や挿絵を担当するほか、クリーブハイブや関取花のツアーグッズなども手がける。著書にエッセイ集『ざらざらをさわる』(晶文社)、『怪談未満』(柏書房)がある。 (文:阿部花恵 編集:笹川ねこ)
朝日新聞社(好書好日)