【モノクローム巡礼】 神話に彩られた聖地・青島:大坂寛「神のあるところへ」 石の章(4)
大坂 寛
神が宿るとあがめられてきた磐座(いわくら)・御神木などの自然物を写真家・大坂寛がモノクロームカメラに収める。今回は最高神アマテラスのひ孫・山幸彦が暮らし、子を授かった神話の島をお届けする。
奇岩・鬼の洗濯板と山幸彦神話の島
宮崎県南部にある日南海岸の北端、果てなく続く青い海原を背にした青島は、ヤシ科のビロウなど熱帯・亜熱帯植物27種の群生地として特別天然記念物に指定されている。周囲860メートルの小さな島は、「鬼の洗濯板」と呼ばれる奇岩に囲まれる。海床が700万年をかけて隆起し、その過程で波に洗われて生み出された波状岩である。 青島は山幸彦と呼ばれるホオリの神話でも知られる。海神の娘をめとったホオリが、子を宿した妻を迎えたのがこの島だった。神話に彩られた島全体が、夫婦神を祀る青島神社の境内地。有史以前から聖地とされ、弥生時代の人々が祈りをささげた磐境(いわさか)もあるというので訪ねてみた。
石に囲まれた古代の祭祀場へ
青島は宮崎市街から南へ車で30分ほど。宮崎空港を過ぎると視界が開けて空と田んぼが広がり、やがて光る海の向こうに黒い岩礁を広げた島影が見えてきた。海岸から神の島へと渡る長い橋が延びる。この橋が参道で、両側にはひだのような長い岩が幾重も続いていた。大きな鳥居をくぐり島の奥へと歩いてゆくと、静かな浜辺の向こうに青い海が広がっていた。 浜を埋め尽くすのは砂ではなく、小さな巻き貝や二枚貝の貝殻。海底にあった頃に堆積した貝殻でできた島なのだ。ここでは古来、貝の中でも特にタカラガイのことを真砂(まさご)と呼ぶことから、別名を真砂島という。神社前の浜で真砂を拾い、元宮(もとみや=かつての本殿)にお供えすると願いがかなうといわれている。 島の中心部の元宮を目指し、熱帯植物の生い茂る森の参道をゆくと赤い小さな社殿が見えてきた。その背後に大小の石を円形に並べた磐境があった。ここからは弥生式土器や獣の骨などが出土しており、古代の祭祀(さいし)場だと考えられている。 出土品には祭器とされる平瓮(ひらか)という素焼きの皿もあり、これにちなんで元宮では「天(あめ)の平瓮投げ」と称した占いができる。柵越しに平瓮を投げ、磐境の内側に入れば願い事がかなうそうだ。 夫婦神にまつわる伝承は妻が赤子を残して島を去るところで終わるが、ホオリがその帰りを平瓮で占ったかどうかは伝えていない。