「AQUOS R9 pro」と「らくらくスマートフォン」 真逆の新機種から見える、日本メーカーの“生き残り戦略”
フラグシップモデルの開発は普及価格帯にも好影響、2社とも販路拡大にも取り組む
一見すると、ベクトルが真逆のように思えるAQUOS R9 proとらくらくスマートフォン F-53Eだが、メーカーの持てる技術を注ぎ込み、何かに特化した端末を作るという観点では共通性もある。AQUOS R9 proはカメラへのこだわりが強いユーザーにとってのフラグシップモデルだが、らくらくスマートフォン F-53もらくらくスマートフォンの使い勝手にこだわりの強いユーザーにとってのフラグシップといえる。 どちらもAndroidのミッドレンジモデルやiPhone、Pixelシリーズのようにど真ん中のモデルではなく、大ヒットは見込めないかもしれないが、購入層は明確で、刺さるところには深く刺さるモデルだ。世界各国で広くあまねく販売される汎用的なスマホとの差別化もでき、国内のユーザーのニーズをくみ取りやすい。その意味では、日本メーカーらしい差別化戦略といえそうだ。 大きな販売数は見込みづらいとはいえ、こうしたモデルを開発するための理由もある。シャープの小林氏は、「技術の最先端を攻めていく上では非常に重要」としながら、「ああいうもの(AQUOS R9 proのようなフラグシップモデル)が作れないと、スタンダードモデル(AQUOS sense9のようなミッドレンジモデル)でいい画質が作れない」と語る。 また、「ベストを尽くせるという意味では、ブランド効果も非常に大きい」という。AQUOSというスマホを、世の中に示すためには、やはり技術を注ぎ込んだフラグシップモデルが必要というわけだ。「世界のトップ集団にとどまるためには、ああいった機種が必要になる」というのが、シャープの見立てだ。らくらくスマートフォンは母集団が見込みやすく、ビジネス的には安定している違いもあるが、一部の技術はarrowsなども共有できる。実際、F-53Eでは自律神経の状態を測定する機能をarrowsから受け継いだ。 2社とも、販路を広げ、より多くのユーザーにリーチできる取り組みも行っている。シャープは、台湾、インドネシア、シンガポールといった海外展開を果たしているが、AQUOS R9 proもライカブランドを冠したまま、順次販売を開始していく。これに対し、FCNTはらくらくスマートフォンを初めてY!mobileやオープンマーケットモデルとして展開する。 Y!mobile版は、ソフトバンクのサポートや健康医療系サービス「HELPO」とも連携させ、ドコモ版にない独自の売りを打ち出した。MVNOに家族で乗り換える際に、親のスマホにらくらくスマートフォンを選べないというユーザーの声を受け、オープンマーケット版はIIJmioやHISモバイルなどのMVNOも取り扱う。さらに、構想段階だが「海外市場にもチャレンジしたい」(執行役員 副社長 桑山泰明氏)と目標は大きい。規模では海外メーカーの後じんを拝している日本メーカーのスマホだが、反転攻勢にも期待したい。
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