「AQUOS R9 pro」と「らくらくスマートフォン」 真逆の新機種から見える、日本メーカーの“生き残り戦略”
“変えないこと”が難しかったらくらくスマートフォン、部品レベルでの特注も
フラグシップモデルを突き詰めたAQUOS R9 proを投入したシャープに対し、FCNTが新たに披露したのは、らくらくスマートフォンの後継機だ。新たに投入するのは3機種。ドコモ向けのらくらくスマートフォン F-53Eと、Y!mobile向けのらくらくスマートフォン a、さらにはオープンマーケットモデルのらくらくスマートフォン Liteを展開する。機能面でこれまで販売してきたらくらくスマートフォンの後継機になるのが、ドコモ向けのF-53Eだ。 性能的にはミッドレンジモデルに属するF-53Eだが、実はターゲット層であるシニア世代に合わせ、細かな作り込みがされている。例えば、ディスプレイには静電容量式のタッチパネルの下に感圧センサーを入れ、フィードバックを返すことであたかも本当のボタンを押し込んでいるかのような操作感を再現。カメラも光学式手ブレ補正に対応し、AIも活用することで画質を底上げした。ディスプレイは5.4型に大型化している。 ただ、一見しただけでは、先代モデルからの変化が分かりづらい。大枠のコンセプトは変えていないため、アウトプットとしての製品も先代を踏襲したものになる。一方で、FCNTでプロダクトビジネス 本部 副本部長 プロダクトポートフォリオ・マーケティング・営業戦略担当を務める外谷一磨氏は、「ガラッと変えることはできたが、お客さまの求める伝統を守り、継続的に進化させるのも挑戦だ」と語る。逆説的だが、変化の激しいスマホ業界では、現状維持の方が難しいこともある。 一例を挙げると、F-53Eに採用されたディスプレイがそれに当たる。同モデルでは、ディスプレイを大型化したが、それでも5.4型のサイズに収めており、一般的なスマホと比べるとかなり小型だ。これは、らくらくスマートフォンのユーザーが手のひらにフィットすることを強く求めているためだ。一方で、このサイズの有機ELは汎用(はんよう)的な部品がなく、「らくらくスマートフォンのために専用で作り起こした」(同)という。 横持ちで撮影した際に、指が写り込みにくく、画角が調整しやすいよう、カメラを背面の中央上部に搭載するレイアウトも前モデルから踏襲している。これも、「センターに実装すると、そこにカメラが来てしまって他の部品を乗せられなくなってしまう。だからこそ、他メーカーは左に寄せているが、ユーザーは位置も含めてこだわりが強いので全て実現するために高度な設計している」(同)という。 背景には、ユーザーのらくらくスマートフォンに対する強いこだわりがある。FCNTの調査によると、同機種からアクセスできる「らくらくコミュニティ」のユーザー300万人のうち、9割もの人が「ドコモでらくらくスマートフォンを使い続けたい」と考えているという。現在使用中の端末への満足度も9割と高い。ユーザーの強いこだわりがあるため、あえて変えないことに挑戦しているというわけだ。