組織不正は“正しい”? 時代とともに変わる「正しさ」との向き合い方
組織不正に対応するために人事部にできること
――人事としては、どのようなことに取り組んでいくべきでしょうか。 社内基準が法令要件(外部基準)を守れているかを確認するのは、人事部の役割ではないかもしれません。しかし組織体制や人に関することは、人事部の役割が極めて重要です。まずは、社内での多様性を高めたり、社外の声を聞いたり、人事が普段意識していることが不正の防止にも役立つ意識を持ってほしいと思います。 また、法令要件(外部基準)を確認する際は、現場レベルでの取り組みが不可欠です。ここには人事が携わる必要があるでしょう。たとえば、製造部門に人員が足りていないことが原因で不正が起こりやすい環境になっているのであれば、人を採用したり、異動させたりするなどの人員拡充が求められます。 また人事部には、現場の意見を吸い上げる機能があります。最近、銀行業界を舞台にしたドラマを見ました。本店の人事が各支店にしっかりと目配りをして、何か問題が起こったらすぐに本部で議論する体制をとっていました。あくまでフィクションの話ではありますが、そういった体制の構築は重要です。ただし各支店は人事に監視されることに抵抗があるかもしれないので、本店と支店とで良好な関係性を構築する必要があるでしょう。 ほかには、東京証券取引所が発表している「コーポレートガバナンス・コード」はぜひ活用してほしいですね。同指針が定めた「適切な情報開示と透明性の確保」や「取締役会等の責務」などを、上場会社が順守できていない場合は、各社のコーポレートガバナンス報告書において、その理由を説明しなければならないと定められています。指針を守れていないことを自覚するだけでなく、今後の対応を検討して外部に公表することが求められるため、法令の逸脱が発覚する前に自浄作用を働かせられる仕組みだと思っています。 ――人事が従業員に目を配ることが、不正につながる乖離に気づくことにつながるのですね。 そのとおりです。最後に、最近わかった興味深い研究結果を紹介します。それは、「データ改ざんは、他の不正と比べて悪質性を認定されやすい」ということです。いま私が研究している自動車の認証不正問題では、六つの試験項目において不正が認められました。このうち五つは実際に車をぶつける試験で、残り一つがデータを用いた試験でした。 実際に車をぶつけた試験で起こった不正は、「過失に近い不正」と言われています。製品自体が物理的に存在すると、不正する余地が少ないからです。一方で、後者はより悪質性が高い不正とされました。それは、データが人の手で数字をコントロールしやすいからです。したがって、法令からの乖離や不正が起きていないかを考えるとき、まずは「人がデータを操作していないか」に着目することが鍵になるでしょう。データに対して人が介在することでミスなども起きやすいのであれば、AIを活用することも今後の選択肢の一つだと思います。 (取材:2024年9月2日)
プロフィール
中原 翔さん(立命館大学 経営学部 准教授) なかはら・しょう/1987年、鳥取県生まれ。立命館大学 経営学部 准教授。2016年、神戸大学大学院 経営学研究科 博士課程後期課程修了。博士(経営学)。同年より大阪産業大学 経営学部 専任講師を経て、19年より同学部 准教授。22年から23年まで学長補佐を担当。受賞歴には日本情報経営学会 学会賞(論文奨励賞(涌田宏昭賞))などがある。主な著書は『社会問題化する組織不祥事:構築主義と調査可能性の行方』(中央経済グループパブリッシング)、『経営管理論:講義草稿』(千倉書房)、『組織不正はいつも正しい-ソーシャル・アバランチを防ぐには』(光文社)など。