組織不正は“正しい”? 時代とともに変わる「正しさ」との向き合い方
「正しさ」は一つではない
――「正しさ」には危うさがあるとはいえ、それでも私たちの行動は「正しさ」が起点となっている場合が多いと思います。改めて、私たちは「正しさ」をどのように捉えるべきなのでしょうか。 個人における「正しさ」で通常想定されるのは、固定的で単一的なものです。しかし「正しさ」とは、時代に合わせて法令要件が変化していくように、実は常に変化していくものです。固定的で単一的な「正しさ」が組織で横行すれば、その「正しさ」が組織内で正統性を獲得してしまいます。それはとても危険な状態です。 組織固有の「正しさ」が正統化されてしまうと、法令要件の変化になかなか適応できません。ほかの企業や社会規範との乖離も起きやすくなります。その結果、法令から逸脱した、影響力の大きな組織不正が生じる可能性が高まるのです。 ですから組織は、固定的で単一的な「正しさ」にとらわれないため、流動的で複数的な「正しさ」を意識していくことが必要だと私は思います。その結果として、最終的に単一的な「正しさ」に帰結する可能性は否定しません。しかしその前段階において、複数性を宿すことが重要なのです。 ――組織としての正しさが固定化されてしまう背景には、何があるのでしょうか。 たとえば、一代で会社を大きくした創業者の意見が絶対視されていると、組織の「正しさ」が固定されるケースがよくあります。昔であれば許されたり、それほど大きな問題にならなかったりしたことの中には、現在では「正しくない」とされているものもあります。しかし「いまの時代にそれをやったら絶対に駄目だ」という感覚が乏しくなるのです。 売り上げが減少している企業の場合、本来であれば思い切ったテコ入れや、別の新規事業に踏み切る必要があっても、「正しさ」が固定されているために現状維持を選択することも起こります。すると、「どうすれば今のやり方で売り上げが上がるのか」と思考した結果、たとえば「顧客が修理に持ってきたものにわざと傷を付けて保険金を水増しする」といった不正の誘発につながっていくケースがあるのです。