「103万円の壁」引き上げ「むしろ格差拡大」と専門家 金持ち優遇にならない提案とは
年収が103万円を超えると所得税が課される「103万円の壁」。その見直しが国会で焦点化しているが、専門家は否定的に捉えているという。一体なぜか。是正すべき「壁」とは。AERA 2024年12月16日号より。 【表を見る】「年金収入300万円の手取り収入が25年間で37万円も減少!」はこちら * * * 生計の維持に不安を感じ、生活防衛が必要と感じている人は現役・高齢世代を問わず多い。このため、少しでも余裕があれば貯蓄に励む人が増える。その結果、消費にお金が回らず、経済成長の鈍化が続く。この悪循環から抜け出すには何が必要なのか。 「技術革新などで労働生産性が上がれば、賃金も上がります。加えて、社会保障制度を見直すことも必要です」 こう話すのは明治大学公共政策大学院の田中秀明専任教授だ。 「過去30年間で保険料総額の対GDP比は7%から14%へ2倍に増えており、働く現役世代ほど負担が重くなっています」 田中さんが是正の必要性を強調するのは、社会保険料の逆進性だ。年金保険料の負担率も低所得者ほど収入に対する負担の割合が高い。消費税も同様である。 「保険料を増やしても、保険でまかなえない職業訓練や教育などの人的投資を増やせないので成長できません。また、日本が直面する人口減少に対応するためには可能な限り多くの人が長く働くことが必要ですが、現在の保険制度がそれを阻んでいます」 専業主婦などの第3号被保険者制度や年収の壁、65歳以上の人が一定の収入を得ると年金が減額される在職老齢年金制度など、働くことを阻害する仕組みが多い。 年収の壁のうち、国会で焦点化している「103万円の壁」もその一つだ。ただ、東京都の最低賃金の上昇率をもとに基礎控除を75万円引き上げて123万円にし、給与所得控除を加えて計178万円とする国民民主党の案を、田中さんは否定的に捉えている。 「基礎控除を引き上げる施策は高額所得者の減税額が多くなるため、むしろ格差を拡大させます」 大和総研の試算によると、基礎控除を引き上げ、給与所得控除との合計額を178万円にした場合、減税額は年収200万円で8万2000円、年収500万円では13万3000円、年収800万円では22万8000円。減税のメリットは低所得層よりも、基礎控除の対象となる「年収2400万円以下」に近い中高所得層のほうが大きく、逆進性が指摘されている。