「103万円の壁」引き上げ「むしろ格差拡大」と専門家 金持ち優遇にならない提案とは
「インフレ相当の所得控除の引き上げは妥当性がありますが、国民民主党の案は引き上げ幅が大きすぎます。引き上げるならば財源を提案しないと無責任でしょう」(田中さん) 田中さんが提案するのは、所得控除の調整ではなく、税額控除だ。税額控除とは、課税所得金額に税率を乗じて算出した所得税額から、一定の金額を控除するもの。なじみ深いのは住宅借入金等特別(住宅ローン)控除だ。例えば、所得税が20万円で住宅ローン控除の金額が10万円なら、所得税20万円から10万円を直接差し引くことができる。田中さんは税額控除のほうが「金持ち優遇」にはならない、と主張する。 年収の壁をめぐっては所得税をめぐる「103万円の壁」よりも、社会保険に関する「106万円の壁」や「130万円の壁」の是正が本丸と、田中さんは唱える。 ■年収の壁が制度疲労 「こうした壁は、昭和における夫のみが働くことを前提とした仕組みであり、現在では制度疲労を起こしています。また、保険制度に多額の税金を投入しているので、豊かな者も税金で助ける一方で、セーフティーネットは穴だらけです」 今後、基礎年金はマクロ経済スライド(負担と給付を均衡させる仕組み)により3割も削減されることになっており、貧困がさらに増えることが予想されている。 「セーフティーネットが不十分だとリスクも取れず、ベンチャー企業も増えません。年金にとって最良の薬は経済が成長すること。経済のパイが大きくならない限り、現役世代も高齢者も豊かにはなりません」 田中さんはこう続けた。 「私たちは日本経済という同じ船に乗っているのです。それぞれが可能な範囲で働き、貢献する仕組みがなければ、日本経済という船はさらに沈んでいくだけです」 (編集部・渡辺豪) ※AERA 2024年12月16日号より抜粋
渡辺豪