北朝鮮による拉致被害者・横田めぐみさん一家を追い詰めた “誘拐犯”からの電話、その正体は…?
犯人は高校生……誘拐については完全に「シロ」
その間、警察では男が電話していた自宅のマンションを突き止め、幸いドアが開いていたので部屋に踏み込んで、男が受話器を置こうとした瞬間に現行犯逮捕することができました。電話の周りにはめぐみの事件を報じた新聞記事がひろげてあって、男はそれを見ながら話をしていたとのことでした。 逮捕の知らせを受け、刑事さんから「よくやったね」と言われたとき、私はグターッと力が抜けてしまいました。その一方で私は、あとはこの犯人から、めぐみの居場所を聞き出すだけだと、ホッとするような思いもありました。 犯人は高校生でした。私は声の感じから26、7歳か、あるいはもっと年上の男性だと想像していたので、意外でした。事件の報道を読んで、いたずらをしてやろうと思い、誘拐犯を装って脅迫電話をかけたと自白したそうです。 けれども、その高校生は電話の中で、具体的にお蕎麦屋さんの名前をあげて、そこでめぐみを働かせているとまで言ったのです。実際にそういう名前のお蕎麦屋さんがあるとのことで、うちにいた刑事さんがすぐに中央警察署に連絡をとって調べてくださり、結局そんな事実はないと判明したのですが、それでも私は釈然とせず、その高校生とめぐみの失踪とは何かつながりがあるかもしれないから、徹底的に調べてくださいとお願いしました。 警察のほうでも、1週間か10日間、高校生を勾留して厳しく取り調べたようですが、やはり誘拐については完全に「シロ」でしたと連絡がありました。「もしかしたら」という思いが強かっただけに、私は警察からの知らせを聞いて心底打ちのめされ、ポロポロと泣きました。 犯人の高校生は1人っ子で、両親が共働きということもあって、いつも1人ぼっちで寂しかったのでしょうか、あとで刑事さんから、「みんなで一緒に仲良く暮らしませんか」なんてことは、今まで言われたことがなかったと言って涙を見せ、しんみりしていたと聞きました。しかしその後、その高校生や親が謝りに来ることも、謝罪の手紙を寄越すこともありませんでした。
弁護士JP編集部