「菌の力で生き抜く強さが必要」eatrip・野村友里が発酵料理が評判のオーベルジュへ[FRaU]
「法律的には雑酒ですが、日本の国の酒であるという意味で日本酒と呼べる。でも一般的な清酒よりよっぽど、この土地ならではの風味が感じられる酒だと思います。というのも今、清酒の多くは米をひたすら磨くことできれいな味をつくろうとしているから。米の個性や栄養分はほとんどが外皮である赤糠にあるのに、精米歩合40%ならば60%は削ってしまっているんです。だから、清酒を飲んで米の品種を当てることはほぼ不可能だと思いますよ」と佐々木さん。
人間の舌では甘みと旨みを判別しづらいので、甘みがある白米がおいしいとされている。だから甘みを増やすために肥料を与えるが、糖質が高い米は酸化が早い。玄米の独特な臭いが疎まれがちなのは酸化した外皮のせいだという。
そんな栄養過多の米だと雑味成分が増えてしまうから、米を磨かないときれいな味の酒が造れないのだ。
田んぼも人の体も発酵食も菌の力で生き抜く強さが必要
「慣行栽培であっても稲作は大変な作業です。昔の農家は、農薬を撒くのだって手作業で丁寧にやっていた。そこまで苦労して育てた米なのに、そのほとんどを削ってしまうなんて、米の価値ってなんだろうという憤りがありました。だから私は、米を磨いて味を調えるのではなく、土を健全に改良することで雑味のない味を生みだそうと考えたのです。自分たちが食べるもので体ができているように、おいしい酒を造る米が育つには、土壌が大切なはずですから」 以来20年以上、無農薬無施肥で遠野1号という在来種のうるち米を育てている。収穫直後は淡白な味だが、寝かせると旨み成分であるアミノ酸の数値が上がっておいしくなるのだそうだ。 「品種よりも、この土地で種を採取し、また播いて育てていくことが大切なのだと思います。これを続けることで、その土地らしい味になっていくので」
現在の清酒は醸造用乳酸や協会酵母を添加する「速醸酛」がメジャーとなっているが、〈とおの屋 要〉のシグネチャーとされる「水酛」や「生酛」は、自然の乳酸菌の力で雑菌を抑え、天然由来の酵母の増殖を促す昔ながらの造り方だ。 「発酵が始まれば放置です。搾ったり熟成させたりという作業はあるけれど、自分の酒造りはほとんどが自然任せ。うちの土で育った米から生まれた優良な乳酸菌と蔵付き酵母が働いているのであって、私たちはそれを手伝っているだけ。言ってみれば、この土地の自然がつくる味なんです」 どぶろくや酒造りを通して発酵の理解が深まったこともあり、佐々木さんの料理は発酵や熟成がベースとなっている。