【ラージ商品群・国内第2弾】ナローであることの意味と魅力とは マツダCX-80デザイナーインタビュー
マツダの「魂動デザイン」と「CX-80」の関係
鈴木ケンイチ(以下・鈴木):マツダのデザインと言えば「魂動デザイン」ですが、それと「CX-80」の関係を教えてください。 【写真】マツダ「新フラグシップ」CX-80 ディテールやインテリアのフォトギャラリーをみる (77枚) 玉谷聡氏(以下・玉谷):マツダのデザイン本部からアウトプットするものは、すべからく魂動デザインです。スタイリングからインテリア、カラーも含みます。 その最初が「シナリ(編集部注:2010年発表)」というビジョンモデルです。それをベースに、その造形要素の特徴を、いろいろなクルマに入れてゆきました。「アテンザ」でスタートして、「マツダ3」、「マツダ2」、「CX-3」と来ました。これが最初の世代です。 その次に、魂動デザインのセカンドジェネレーションになります。「RXビジョン(2015年発表)」と「ビジョンクーペ(2017年発表)」です。ここで面質がグッと変わりました。 我々は、「艶」と「凛」と言っていますが、いわゆる「艶やかさ」と「凛としたもの」の両方をバランスさせて、その幅の中でデザイン表現をしていきましょうというのが、これまでの歴史です。 鈴木:「CX-60」に始まり、「CX-80」に続くラージ商品群は、そのセカンドジェネレーションのデザインとなっているというわけですね。 玉谷:その通りです。魂動デザインを継承している中での最新型となります。
特徴的なラージ商品群のロングノーズの理由
鈴木:マツダのラージ商品群というのは、ロングノーズが特徴だと思います。これはFRプラットフォームを採用したのが理由だと思うのですけれど、デザイン的な功罪はあるのでしょうか? 玉谷:ロングノーズは、もともとやりたい骨格のひとつでした。原理原則でいうと、後輪駆動車は、加速するときに後ろ足を使います。少し後ろが沈み込みながら前に行きますよね。動物も後ろ足でキックしています。後ろにエネルギーをため込んで、後輪にトラクションをかけて、前に向かってリープ(飛び跳ねる)する。後輪を重視する、ノーズの長い感じというのが、やりたいカタチでした。 それを、ずっとFFで無理してやっていたのが、ラージ商品群でFRプラットフォームになったので、リアルな骨格で表現できた。それを、できる限り表現しようと思いました。 鈴木:隠すのではなく、あえて出したのですね? 玉谷:そうです。理由のあるプロポーションが、やはり一番強いと思っています。 鈴木:個人的には、個性的でいいなと思います。ただ、「CX-60」は、それがより強調されており、どちらかと言えば「CX-80」の方が、均整はとれているように感じます。 ◆アメリカと日本向けのデザインの違いとは 鈴木:アメリカ向けには、車幅の広い「CX-70」と3列シートの「CX-90」が、すでに発売されています。日本向けの「CX-60」と「CX-80」は車幅が狭い、いわゆるナローなモデルです。デザイン的には、どのような違いがあるのでしょうか? 玉谷:アメリカでは、迫力ある骨格や押し出しの強さが求められます。だから、「CX-70」や「CX-90」では、車幅をワイドに、車高も上げて、全長も伸ばして5mを超えています。そこまで伸ばして、ぐっと張りのある強いものを作りました。 デザイン的には、単純に幅を広げた方が、格好良さの方程式に当てはまりやすくなります。そういう意味で、アメリカ向けは、素直に格好良く、強く作っています。 それに対して、日本やヨーロッパ向けのナローは、どちらかと言えば、バランス勝負になります。表現しすぎない知性と説明しています。好きなだけ表現するのには、スタイル・オリエンテッドなわがままさがあるんですね。 逆に制約の中で、ある緊張感をもって完成してゆくのが、ナローの道というか、魅力になると。ギリギリの緊張感が魅力のような気がします。 鈴木:実車をよく見ると、クルマが四角いことに気づきました。もしかすると、デザインのためのスペースはあまり使えてないのでしょうか? 玉谷:そうです。僕がチーフデザインを担当した「CX-60」でいえば、「CX-5」よりも大きくなっていますが、そこには造形に使える寸法はまったくありませんでした。本当に絶妙なバランスで成り立っていると思います。