脳卒中の治療までの時間が60分短縮 地方医師が頼りにする救命アプリと医療DX
医療の人手不足が地方で進むなか、医療従事者の間である医療用コミュニケーションアプリの存在が大きくなってきている。「Join」というそのアプリのおかげで、脳梗塞や交通事故などの治療が迅速に行われているという。単体のアプリとして国内で初めて保険適用にもなった。Joinを使っていち早く医療DXを進める和歌山や青森の現場を取材した。(文・写真:ノンフィクションライター・古川雅子/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
患者搬送前にアプリのCT画像を共有
山林が多く、海岸線沿いの国道に車の往来が集中する和歌山県。行楽シーズンにはこの一本道が混雑するため、急病者の搬送には困難がある。 2019年冬のある平日の朝、県中部の有田市に住む71歳の女性が自宅で倒れた。すぐに夫が救急車を呼び、女性は近くの有田市立病院に運ばれたが、脳卒中の様相で昏睡状態。対応した医師が頭部をCT(コンピュータ断層撮影)で撮影したところ、脳出血を確認した。ただし、医師は脳神経外科医ではなかったため、20キロほど離れた和歌山県立医科大学附属病院に連絡し、女性の症状を伝えた。 その後の流れが従来とは異なっていた。本来は、患者を救急車で市立病院から県立医大病院に搬送、脳外科医が市立病院で撮影されたCT画像のCD-Rデータを受け取り、そこから診断し、治療方針を決定する流れになる。 だが、この時は、市立病院からの搬送要請時点でCT画像の情報共有が行われた。使われたのは、LINEのようなコミュニケーションアプリ「Join」だ。県立医大病院脳神経外科准教授(当時)の藤田浩二さんは、市立病院から送信されたタブレットのアプリ画面を見て「重症の脳出血」と診断、患者が搬送される前に救命目的の緊急手術が必要と判断した。 それを受け、県立医大病院の救急科はドクターヘリで市立病院に向かい 、患者を乗せて戻って来た。その間、藤田さんは手術室の準備、手術スタッフの招集、麻酔科への依頼……と全ての手はずを整えた。おかげで発症から80分後には、患者を手術室に入れることができたという。藤田さんは言う。 「手術開始までの時間を少なくとも60分は短縮できた。もし遅れていたら、救命できなかったか、寝たきりになっていた可能性があります」