日本に1つしかない「赤ちゃんポスト」 行政の支援で増やす必要はあるのか?
熊本県の慈恵病院でスタートした「こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)」は今春、開設から15年を迎えた。預けられた子は161人。当初から「子捨てを助長する」という批判がある一方、「多くの命が救われた」という評価もある。欧米で浸透するゆりかごが、なぜ日本では1カ所なのか。ゆりかごに懸念を抱く医師、開設を試みた団体らに話を聞き、実情を探った。(取材・文: Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
15年で161人が預けられた
「ご批判もあったが、161人の孤立した母子の助けになったことは間違いない」 慈恵病院(熊本市)の蓮田健院長は5月、ゆりかご開設からの15年をこう振り返った。 親が養育できない子を匿名でも預かるゆりかご。熊本県内で乳児の殺害・遺棄事件が相次いだことをきっかけに、健氏の父で当時理事長だった蓮田太二氏(故人)が2007年に運用を始めた。民間病院による国内初の試みで、当時の安倍晋三首相が「抵抗を感じる」と発言したこともあり、大きな注目を集めた。 ゆりかごに子を預けることが保護責任者遺棄罪などにあたらないかも議論の対象になったが、厚生労働省は「直ちに違法とはいえない」という見解だった。今年3月末までに預けられた子は161人。預けたのは大半が母親で、理由は「生活困窮」「彼氏が逃げてしまった」「親(祖父母)らの反対」などだという。
ゆりかごは病院の裏手に設置されている。扉を開けると温度が一定に保たれたベッドがあり、赤ちゃんを預け入れることができる。扉を閉めると自動でロックがかかりナースステーションと新生児室のブザーが鳴る。職員が直ちに駆けつけて保護し、医師が健康状態を確認する。赤ちゃんは虐待の痕などがなければ児童相談所が保護し、養育先が決まるまでの間、乳児院に預けられる。 ゆりかごについて病院側は、「本来使われるべきでなく、母子を救う最後の手段」という位置づけだ。
「出自を知る権利」の問題
ゆりかごには当初から、「子どもの出自を知る権利が守られていない」という批判がある。親が匿名で子どもを預け入れられるため、親の名前がわからないという問題だ。 同病院が昨年12月に初めて受け入れをおこなった「内密出産」は、病院の責任者に母親が自身の情報を伝える。そのため、子はその後に出自を知ることもできるが、ゆりかごはそうではない。預けられた161人のうち、約2割の31人の親がわかっていない。病院側もポスト内に連絡先を書いた手紙を置くなどしているが、全員が連絡してくるわけではない。