私たちはいつ眠るのか、夜に眠くなるのはなぜか?睡眠を決定する「2つの要素」の正体
私たちはなぜ眠り、起きるのか? 長い間、生物は「脳を休めるために眠る」と考えられてきたが、本当なのだろうか。 【写真】考えたことがない、「脳がなくても眠る」という衝撃の事実…! 「脳をもたない生物ヒドラも眠る」という新発見で世界を驚かせた気鋭の研究者がはなつ極上のサイエンスミステリー『睡眠の起源』では、自身の経験と睡眠の生物学史を交えながら「睡眠と意識の謎」に迫っている。 (*本記事は金谷啓之『睡眠の起源』から抜粋・再編集したものです)
睡眠の二過程モデル
1日の中でいつ眠り、いつ目を覚ますのか? 夜に眠くなるのはなぜか? そんな謎を説明する理論が、1980年代にスイスのアレキサンダー・ボルベイによって提唱された。「睡眠の二過程モデル」と呼ばれる理論だ。この理論はその後、さまざまにアップデートされてきたが、睡眠が「睡眠圧」と「体内時計」という2つの成分によって調節されているという点は一貫している。 「睡眠圧」は起きている代償として、高まるものである。起きている間に高まった「睡眠圧」が、眠ることで解消される。もし、「睡眠圧」だけで、睡眠がコントロールされていたとしたら、私たちは昼も夜も構わず、眠気が一定のところまで溜まった途端に、眠りに落ちてしまうことだろう。「睡眠の二過程モデル」では、「睡眠圧」と「体内時計」の掛け合いによって、眠りにつくタイミングが決まるとした。 「睡眠圧」が眠らせようとする力であるのに対し、「体内時計」の成分は、起こそうとする力(覚醒シグナル)だとすると、うまく説明できるのだ。 昼間、起きている状態が続くと、「睡眠圧」(眠らせようとする力)が徐々に高まっていく。「体内時計」による起こそうとする力は、朝から昼にかけて高まるが、その後はしだいに低下していく。そして、「睡眠圧」(眠らせようとする力)から、「体内時計」(起こそうとする力)を差し引いたものが、実際の眠気だと考えたのだ。 すると、眠気は朝の時点ではゼロだが、起きている時間が長くなり、さらに夜になって「体内時計」の力が下がると、どんどん増大していく。そして、この眠気が十分大きくなったときに、眠りに落ちるのだ。眠りにつくと、「睡眠圧」は解消される。「睡眠圧」が十分低下したとともに、明け方になって「体内時計」の力が高まると、差分である眠気がゼロになって、再び目を覚ますというしくみだ。 では、もし徹夜をしたとすると、どうなるのか? 徹夜明けや、夜にあまり眠れなかったときのことを、思い出してほしい。徹夜明けの朝方は眠くて仕方なかったのが、昼間になってくると、少しは我慢できると感じたことのある人がいるかもしれない。 「睡眠の二過程モデル」にもとづいて考えてみると、夜眠らなかったことで、「睡眠圧」は解消されることなく前の日から高まり続けている。「体内時計」の成分に目を向けると、明け方は起こそうとする力が弱いため、「睡眠圧」との差分(眠気)が大きい。しかし、昼間になって「体内時計」の覚醒シグナルが上昇すると、眠気が少し軽減されるのだ。 ボルベイの提唱した「睡眠の二過程モデル」は、これまで睡眠科学の基礎になってきた。遺伝子が時を刻んでいる「体内時計」と、未だ得体の知れない「睡眠圧」──2つの成分によって睡眠が調節されている。
金谷 啓之