高齢者、お餅を食べて「窒息事故」 半数近く1月に集中…食べさせた人に「法的責任」ある?
少なくなってきたと言われますが、お正月にお餅を食べる風習は今も続いています。きなこをかけたり、醤油につけたり・・・。とくに雑煮は、日本全国でいろいろなレシピがあり、いろいろ試してみると楽しいです。 一方で、お餅を食べるときには窒息事故に気をつけなければなりません。消費者庁の分析によると、65歳以上の高齢者のお餅による窒息事故の半数近くは、1月に発生しており、特に正月三が日の多さが目立っているそうです。 高齢者は、噛む力や飲み込む力が弱くなるため、食べ物を喉に詰まらせやすくなるからだと言われています。正月そうそう、そんな事故に遭わないようにしたいものですが、お餅を詰まらせた事故の法的責任はどうなるのでしょうか。泉田健司弁護士に聞きました。
●生レバーと違って「お餅そのもの」に危険があるわけではない
お餅を喉の詰まらせた責任ですが、通常であれば、メーカーやお餅を作った人にあるわけないですよね。 ただ、生レバーのことを思い出してください。生レバーは2012年から、食品衛生法に基づいて、販売・提供が禁止されました。それまでは、お肉屋さんで売られていましたし、焼肉店でも提供されていました。 これは2012年を境に「生レバーが変質してより危険性が高まった」というわけではありません。人々の意識が、こんな危険なものを普通に販売・提供することは許されない、という考えに傾いたからです。危険性に関するさまざまな研究者の意見もあったことでしょう。 このように、いままでOKだった食べ物が禁止されることもあるわけです。 では、お餅も販売・提供が禁止されることがありうるのでしょうか。 この点、生レバーと違って、お餅自体は嚥下が難しいというだけで、お餅そのものに危険があるというわけではありません。そして、嚥下能力が低い方にとって、嚥下が難しい食材はほかにもたくさんありますから、お餅だけが禁止されるということは考えにくいです。 実際のところ、お餅による窒息死に対する直接的に有効な対策はなかなかありません。政府広報や消費者庁、消防庁などのホームページで、お餅の危険性とお餅を詰まらせたときの対処法などを、警告・周知するという程度の対策のみというのが現状です。 高齢になると、若いころのようにいかなくなりますが、自分の能力に対して、正確な自己認識を持つのはかなり難しいことです。とくに嚥下能力は健康診断等での調査項目にもないですからね。 嚥下能力に関する専門家は言語聴覚士なのですが、人数も少ないと言われています。このあたりに問題があるのかもしれませんね。 お餅を食べさせた人が責任を問われる可能性は、ほぼほぼないといっていいでしょう。 ただし、たとえば介護施設などで、嚥下能力が低下していることを把握しているにもかかわらず、お餅を提供したというようなケースでは、介護施設が責任を問われることもありえるでしょう。 【取材協力弁護士】 泉田 健司(いずた けんじ)弁護士 泉田法律事務所 大阪弁護士会所属。大阪府堺市で事務所を構える。交通事故、離婚、相続等を中心に地域一番の正統派事務所を目指す。