人事の常識を覆す制度改革 ドミノ・ピザのジョブ型雇用やノーレーティング導入の秘訣に迫る
従業員一人ひとりに業務目標を設定し、年1回その達成状況を評価する……多くの日本企業では、目標管理制度をベースとした人事評価が行われています。株式会社ドミノ・ピザ ジャパンでは、2年前からそうした従来型の目標設定や評価を廃止し、個人をランク付けして評価するレーティングという考え方を一掃。「Pay for Job」「No Rating」「One Team/Profit Sharing」という同社のHRポリシーにもとづき、大胆な人事施策を次々と展開しています。人事の変革を主導した同社HR部 部長の影山光博さんに、ドミノ・ピザ ジャパンの「攻めの人事」の概要、新制度導入に踏み切った背景、運用の現在地などについてうかがいました。
パーパス&バリューから導き出された「攻めの人事」
――まず、貴社の店舗数や従業員数などをお聞かせいただけますか。 現在、ドミノ・ピザ ジャパンは日本全国に約1000店舗を展開しています。そのうちの約3割が直営店で、残りの7割がフランチャイズ加盟店です。本社と直営店の合計の従業員数は正社員が625名、アルバイトが9200名。フランチャイズ店も含めると、全従業員数は2万3000名にのぼります。 ――従業員には、どのような人材像を求めていらっしゃるのでしょうか。 ドミノ・ピザにはグローバルで共有される「パーパス&バリュー」があります。正社員やアルバイト・パートといった雇用形態を問わず、その考え方を共有できる人を採用したいと考えています。 私たちのパーパスは「ピザでつながる」。当社はピザにフォーカスしている企業です。ピザは誰かとシェアして楽しまれることが多く、必ず人と人との間に存在するもの、人と人をつなげるものであるという認識です。 バリューは五つあります。一つ目は「FUNの共有」。優しさ、思いやり、共感を持ってお客さまにポジティブに接することです。二つ目は「正しいことを行う」。誠実さを大切に、社会に対して常に正しいことを実行しています。三つ目は「慣習を打ちこわす」。既成概念にとらわれず、それを超えるものを創造していくイノベーティブな姿勢です。四つ目は「成長と活躍」。従業員一人ひとりが強みを発揮して活躍できる環境を整えます。五つ目は「感動を超える顧客体験」。適正価格でピザを提供するだけでなく、お客さまに感動していただくためにさまざまな工夫を凝らします。 ――五つのバリューの中でも特に「慣習を打ちこわす」「成長と活躍」を人事ポリシーとして重視されているとうかがいました。 人事は「問題が起きないように、失敗しないように」と、守りの姿勢になりがちです。しかし、それでは今以上に良いものは生まれません。働く仲間の成長と活躍を応援する姿勢を基本としつつ、慣習を打ちこわす意識を常に持つことが、人事施策を実施していく上で大変重要だと考えています。 私はビジネスをよくサッカーに例えます。サッカーは野球のようにポジションや役割が固定されているスポーツと違い、全員が「ある時は守備に」「ある時は攻撃に」と状況に応じて流動的に動かなくてはいけません。守りも重要ですが、守ってばかりいても得点は入らない、ということです。これは現代の経営が人事に求める姿そのものではないでしょうか。 また、当社には「Hungry To Be Better」(良くすることにハングリー)というモットーもあります。常に改善をめざす姿勢でいよう、ということです。このようにして、自然に「攻めの人事」の発想が生まれました。 ――貴社が「攻めの人事」に本格的に取り組まれるようになったのはいつからですか。また、そこにはどのような背景があったのでしょうか。 2年前に目標設定・管理手法としてOKR(Objectives and Key Results)を導入したことで「攻めの人事」が加速しましたね。それまでは当社も、日本企業で一般的なMBO(Management By Objectives and Self Control)による個人の目標設定とランク付けによる評価を行っていました。 私自身もいわゆる日本型のMBOの世界で育ってきましたが、ドミノ・ピザの本社があるオーストラリア側の人事役員は「人を数値で評価し順番付けすることはできない」という考え方でした。私は5年前に入社したのですが、ほどなく日本でもドミノ・ピザのカルチャーにあう人事制度を考えてほしいという話があり、それから2年以上にわたってさまざまな検討と議論を重ねました。本社にも日本の雇用制度や人事慣行を理解してもらい、それに対してアドバイスなどももらいながら、最終的にOKRを核にする方向でまとまりました。 ――MBOからOKRに切り替えた理由は何だったのでしょうか。 OKRはMBOをよりシャープにした目標管理方法だと言えます。OKRの特色は、目標と評価の設定期間が短い点です。当社では3ヵ月単位で回しています。なぜ短いほうがいいのかというと、宅配ピザ事業には「短期的な計画がきわめて重要」というビジネス特性があるからです。 たとえば週末の天気ひとつで、需要は大きく変動します。雨が降ると外出を控える人が多くなり、ピザの注文が増えるからです。そういった日々移り変わる状況に対して、販促活動、資材調達、人の手配など柔軟で迅速な判断が求められます。年間で催し物のスケジュールを組めるような業態とは異なる傾向があるのです。もちろんビジョンとしては3年後、10年後を見すえてはいますが、具体的な数値目標は短期で設定した方がいいと考えました。