人事の常識を覆す制度改革 ドミノ・ピザのジョブ型雇用やノーレーティング導入の秘訣に迫る
起点はビジネス特性にもとづく「OKR」の導入
――OKRの導入をきっかけとして、人事制度をどのように変革されたのでしょうか。 OKRと同時に採用したのが「Pay for Job」「No Rating」「One Team/Profit Sharing」という考え方です。OKRを3ヵ月サイクルで回していこうとすると、これまでの目標設定、評価、昇格・昇給といった作業を進めるのはきわめて困難です。MBOでは目標設定や上司による評価に時間がかかりすぎて、生産性を下げるという声もありました。できるだけシンプルにする必要があるという考えのもと、新たな人事制度を構築することにしたのです。 最初に固めたのは「Pay for Job」、いわゆるジョブ型雇用です。属性や経験値ではなく、仕事そのものに報酬を連動させた方が働きがいを感じ、納得感も得られると考えました。中途採用の時に年収を決めるのと同じことを全従業員に適用しました。仕事に報酬が連動しているので、いちいちランク付けのような評価をする必要はありません。これが「No Rating」です。 ボーナスについては、OKRの下ではビジネスは「団体戦」であると位置づけ、個人の評価ではなく関わった全員で収益を分けあう「One Team/Profit Sharing」という形で運用することにしました。チームはOKRをつくれる大きさで決めています。通常は部署単位が基本です。 ――まさに「慣習を打ちこわす」大胆な変革ですね。新しい人事制度を機能させるために工夫された点をお聞かせください。 OKRの運用にあたり、並行して導入したのが「CFR」という仕組みです。これは「Conversation, Feedback and Recognition」の頭文字をとったもので、対話を強化し、フィードバックをより頻繁に行い、リアルタイムで称賛を伝えるものです。 具体的には、ジョブ型雇用に欠かせない「ジョブ・ディスクリプション」と、キャリアのステップを7段階にわけて昇格・昇進に必要な条件を明記した「キャリア・ステップ・ガイドライン」を整備しました。特に後者をしっかりとつくっている企業は少ないかもしれません。これは、職位ごとに「求められる役割」「求められるスキル」「成長のヒント」「昇進のサイン」を詳細に書き記したものです。 これらをベースに年2回のキャリア面談を行います。毎週の1on1ミーティングとは完全に別枠で、パフォーマンスレビューとキャリアだけに特化した面談です。今は働き方が多様化しているので、全員がマネジメント職につきたいわけではありません。専門性を磨きたい方も増えている印象です。そうしたことも踏まえて、今後の方向性や必要な教育について話しあいます。 ――最初は「レーティングをしない」といった尖った部分が印象に残りますが、詳しくうかがうと、すべての要素が合理的に組み合わさった人事制度だと感じます。 3ヵ月サイクルのOKRにあわせて、労力をかけて評価しても、そのデータはあまり使い道がありません。昇給やボーナスの平等な配分のためという考え方もあるのでしょうが、私たちはOKRを団体戦だと考えています。団体競技のチーム内で、選手一人ひとりに差をつけてランク付けするのは至難の業でしょう。納得感を得られない数値評価をしても、逆に不満がたまるだけです。それなら無理に数値評価はしない方がいい、という発想です。 ボーナスは各自のジョブに応じて利益を分配するプロフィットシェアが最適解です。その土台となるのは、「チームはみんな一所懸命に働いている」「なまけている人はいない」という性善説、そしてチーム全体で喜びを分かち合う姿勢です。これも「正しいことを行う」「FUNの共有」というバリューの一つとつながった考え方です。 ――団体戦はチームメンバーへの信頼が大切、ということですね。その考え方に対して、従業員から不満は出ていないのでしょうか。 慣れるまで少し時間がかかりましたが、予想していたような不満を持つ社員はいませんでした。あとはローパフォーマー対策ですね。他社では、ローパフォーマー対策として「PIP(パフォーマンス改善プログラム)」のような人事制度を導入している事例も聞きますが、当社では特にそういった対策を行っていません。そこはHRBPの腕の見せ所で、何か問題があれば個別に話しあって障害を取り除くようにサポートしています。なまける人がいることを前提にすると制度が複雑になり、まとまりません。全員が成長し活躍できる環境をつくる前提で進めることが大事だと考えています。