人事の常識を覆す制度改革 ドミノ・ピザのジョブ型雇用やノーレーティング導入の秘訣に迫る
「サステナブルな企業文化」を育てる組織開発
――人事の大きな枠組みから再構築されたとのことですが、足元の部分で取り組まれている人事施策や制度づくりなどについてもお教えいただけますか。 当社は「2030年までに日本でもっともサステナブルなQSR(クイック・サービス・レストラン)になる」ことを目標に掲げています。そのためにも攻めの人事、とりわけ「組織開発」が重要になると考えています。将来に向けて、良い人財を残すことよりも前に、良い組織や良いカルチャーを残したいという思いからです。現在、こうした考えで進めている取り組みは、次の三つが代表的なものです。 一つ目は「OKR Week」。目標設定・管理をOKRで行うからには徹底的にやろうということで、年4回、各クォーターの最初の1週間をまるまる使って、会社全体、部門、チームごとにOKRを設定します。この1週間は通常業務よりも、OKRに関する話し合いが優先です。店舗開発を担当しているため外回りが多い従業員も、この期間は基本的にオフィスへ詰めることになります。そして最終日には各部署が発表を行い、全員でOKRを共有し、ビールで乾杯します。我々の仕事の中心がOKRであることを組織に浸透させる効果を狙っています。 二つ目は「Go Gemba!」。「現場に行こう」ということです。飲食業ではオフィススタッフも、店舗をよく理解していることが重要です。2年前からはじめたのですが、10名程度のチームでクォーターごとに店舗を訪れ、アルバイトの人たちと同じ仕事を体験します。執行役員クラスのエグゼクティブチームも、定期的にグループで店舗勤務を行っています。店舗スタッフと直接触れ合うことで、現場の人たちがどんなことを考えながら働いているのかを具体的に理解できるようになります。 現在は新たなフェーズとして「My Store Program」をスタートさせています。オフィスのスタッフ全員を特定の店舗とひもづけ、定期的にその店舗を訪問してサポートする取り組みです。たとえば私の「My Store」は東京大田区の店舗です。原則はクォーターに1回ですが、それ以外の日にも出向いて、店長とコミュニケーションをとっています。店舗スタッフは私たちのビジネスに関わる情報の宝庫なのです。店舗スタッフからは本社の人は専門的な仕事をする遠い存在といったイメージがあるかもしれませんが、定期的にコミュニケーションをとっていれば距離が近づきます。掃除を手伝って、店長から「おかげさまできれいになりました」と言われると、とてもうれしいですね。こういう体験の積み重ねで会社全体が成長していけばと考えています。 三つ目は人事制度で「MGR75」。フルタイムの75%、1日平均6時間勤務で働けるストアマネジャー(店長)の制度です。育児や介護、あるいは趣味やその他の活動のための時間を大切にしたい人にもドミノ・ピザで活躍してほしいという思いではじめました。フルタイムの店長との違いは勤務時間が75%で、担当業務や研修を受ける機会などはすべて同一条件です。雇用形態も正社員です。本当に優秀な方は、短時間でも成果が出せるという思いがありますので、MGR75の中から、将来のリーダーが出てくるといいですね。 ――OKR導入から2年、ちょうど2サイクル回ったところだと思いますが、狙った成果は出ていますか。また、従業員の皆さんの反響などはいかがでしたか。 最初の半年くらいは「なぜランク付け評価をしなくなったのか」と説明を求められることも何件かありましたが、今はもうなくなりました。受け身ではなく、自己提案で仕事をつくりあげ、自分のジョブを大きくしていくという組織文化ができ始めていると理解しています。 「No Rating」というのは、あくまでもランク付けをしないことのみを指していて、評価やフィードバックはむしろ以前よりも頻繁に行っています。これはぜひ強調したい点です。また、外資系企業の特長でもありますが、やったことを皆で讃える文化があります。日常的なコミュニケーションの中だけでなくアワードなど成果を認める表彰制度もたくさん用意しています。 ――プロフィットシェアについての反応はいかがでしたか。 まだ大きな実感はないかもしれません。ボーナスの支払いのタイミングが年2回からOKRサイクルにあわせて年4回になったという違いくらいでしょうか。私は「ボーナスのために働く」という発想はなくなってほしいと考えています。あくまでもビジネスは「団体戦」で、チーム全体の利益を伸ばせばプロフィットシェアは後からついてくる、ということです。 そのため、社内に競争相手はいません。店長同士はライバルではなく、真のライバルは店舗と同じエリアのコンビニやファストフード店など、競合するサービスです。この考え方が浸透すれば、自分がどのように一日を過ごすべきかが明確になると思います。