本当の原因は「うるさい親」でも「無神経な親戚」でもない…「帰省すると居心地が悪い」と思う人が抱えているもの
■「他人から何かを言われるから」だけではない 出身地とは別のところに住んでいる人たちは、「地方暮らし」に淡い期待を抱きながらも、シンプルに帰省をしたいわけでもない。なにより、同じ人物のなかに、2つの感情が同居しているわけではないから、矛盾だとはとらえにくい。 地方への憧れにせよ、忌避にせよ、いまの都会の生活ではない場所=ここではないどこかへの感情は、世界中の誰にとっても、共通するのではないか。都市部の暮らしへの否定が込められているから、つまり、現状の自分にNOを突きつけられるから、帰省がつらいのではないか。 帰省は、都会の快適さを見直す機会になるだけではない。地方を捨ててきた、という後ろめたさを思い出させる。戻りたい懐かしさや、戻らなければならない義務感も抱かせる。親や親類、友人といった、他人から何かを言われるから、だけが、「帰省ブルー」の原因ではない。 それとともに、いや、それ以上に、地方から都市に移り住んだ事実とその理由に、あらためて直面させざるをえない。地方ではなく、都会に住んでいる。そう決断した過去の自分に、向き合わなくてはならないことが背景にあるのではないか。 ■「いま、ここにある危機」に目を向ける 帰省がつらいあなたは、そんな昔の自分との対峙を避ければよい。 もちろん、じっさいに帰省をしない、そんな選択肢もありえるし、仮に帰省をしたとしても、無理やり自分を振り返る必要はない。あくまでも「プレイ」として、あえて、わざわざ帰省する、もしくは、帰省しない、といったかたちで、ゲームのようにとらえれば、よいのではないか。 「帰省ブルー」として、帰省へのネガティブな感情が言語化され、見える化された、この傾向をこそ、私たちは直視しなければならない。最大9連休とも言われる、この年末年始に考えるべきなのは、このことばが広く共有される日本の現状にほかならない。 コンプライアンスやハラスメントへの感度が高まっている都市部と、なかなか変われない地方、その二極化が進んでいるからである。とりわけ若年女性が地方を去る流れが止まらない。東京に比べて地方では、女性に仕事がなかったり、年収が少なかったりする、それだけが要因ではない。 NHKの「クローズアップ現代」でも、読売新聞の特集でも、どちらも、地方では「女性の役割」を求められること=性別による役割分担意識が、女性の「流出」につながったと報じている。 「帰省ブルー」を流行現象ともてはやすのではなく、いま、ここにある危機に、まず目を向けなければならない。それを考えさせてくれるだけでも、この年末年始には、大きな意味があるのだろう。 ---------- 鈴木 洋仁(すずき・ひろひと) 神戸学院大学現代社会学部 准教授 1980年東京都生まれ。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。博士(社会情報学)。京都大学総合人間学部卒業後、関西テレビ放送、ドワンゴ、国際交流基金、東京大学等を経て現職。専門は、歴史社会学。著書に『「元号」と戦後日本』(青土社)、『「平成」論』(青弓社)、『「三代目」スタディーズ 世代と系図から読む近代日本』(青弓社)など。共著(分担執筆)として、『運動としての大衆文化:協働・ファン・文化工作』(大塚英志編、水声社)、『「明治日本と革命中国」の思想史 近代東アジアにおける「知」とナショナリズムの相互還流』(楊際開、伊東貴之編著、ミネルヴァ書房)などがある。 ----------
神戸学院大学現代社会学部 准教授 鈴木 洋仁