「ロケーション負け」に打ち勝つ心・技・体/松山英樹のコーチ・黒宮幹仁が語る2024年の歩み<後編>
秘訣は「誰よりも自分を知る」
ロケーション負けしないために必要なものは何か。黒宮は「本当の意味での心技体のバランスがないと難しい」と考える。 「狭い枠の中に入れようとなった時に、まず打ちたい球筋が出てきます。次にその球を打つためのアドレスとスイングが来る。そして、そのスイングをするための体が必要になってくる。体の安定感がないと、プレッシャーがかかった時に球を潰しにいけなくなりますからね。さらに体を動かせたとしてもメンタルがついてこないと、毎回同じようなスイングができなくなってくる」。一年間PGAツアーの現場で選手を見て、そんな心技体のバランスの大切さをひしひしと感じてきた。
「その意味では、『プレッシャーがかかった時にスイングがどうなるのか』と普段から自分のことを把握しておかなければいけない。トップが浅くなるのか、切り返しが早くなるのか。こういうロケーションだとどんなミスになりやすいのか」。トップ選手ほど「常に自問自答ができている」と言う。 黒宮がサポートする松山も、自分をよく知る選手の一人ということ。「プレッシャーがかかった時に使える技術なのか、使えない技術なのかを曖昧にしている人は多いですが、松山プロは常にそれを試している。練習場で気持ち良く打てても、試合で使えなかったら『もうこれはないな』って捨てる。練習場でプレッシャーをガンガンかけて球を打ち、取捨選択する作業。彼はいろんな打ち方を試すからこそ、練習が人一倍長くなるんです」と松山の練習量の多さについて言及する。 「彼は常に自分に対して疑心暗鬼。『なぜあんな球を打ってしまったのか』など、寝る時間以外ずっと考えていますよ。夜中に急に『こういう打ち方を考えているんだけど、どうかな』って松山プロからLINEが来たりもしますからね(笑)。でも、最後にはちゃんと自分を見つめ直す。それができる選手がやっぱり一流になるんだろうなって、横で見ていて思います」
練習で追い込むことが試合で生きると黒宮は考える。「練習で答えが見つからなかったままスタートすることもあると思います。でも練習場でそこまで詰めてやれているからこそ、試合でアドリブが利くんです」 米国で戦う上位選手は「アドリブ能力が高い」と黒宮は言う。「どんなトップ選手でも、コースに出ると『練習とちょっと違うな』となります。コース上で練習との違いを修正し始める。そのアドリブのつけ方がみんなうまい。例えば序盤のパー4やパー3は違和感があるままなんとかしのいで、広いパー5に来た時に違和感を払しょくするような打ち方を試す。そこでハマればそのままいくし、ハマらなければまた途中で調整する。つまり18ホールを悪いままで行くことがないし、しのぎ方も分かっている。いくらコーチが練習場で教えたとしても、コースに行ったらあとは自分との戦いなんです」 自分を見つめ直すという話の流れで、黒宮が驚いたエピソードがひとつある。「松山プロが練習でスピードアップ系のトレーニングをしていたんです。素振りで速く振ってスピードを上げるようなテストをやった後、ちょっとした過呼吸になったんですよ。そうしたら『この感じ、優勝争いのときの呼吸の浅さと心拍数に似ている。この状態で球を転がしておこう』と言って、すぐにパッティング練習に行きました。この人、考えているところが一歩二歩、先を行っているんだなって衝撃を受けたのを覚えています」