箱根駅伝「青学大の山が強すぎる」問題…「平地は全く走れなくなる」選手が語った“特殊区間への覚悟”それでも「山に懸ける想いがあれば…」
箱根駅伝を連覇した青学大の取材が終わった。外は暗くなっていた。さて、どう書こうか。 【現地写真】「こ、これがスペシャリストの太腿…!」長距離ランナーでは異例の「スクワット重視」の若林の大腿四頭筋…「めっちゃ仲良さそう…」給水で“乾杯”した田中キャプテン&黒田くん・若林くんのハグも見る いろいろと思いあぐねていると、なぜか、ある本の題名が脳裏に浮かんだ。『青春を山に賭けて』。世界的なアルピニスト、植村直己の自伝である。内容は関係ない。今年の勝因を探るなかで、この本のタイトルそのものだと思い至った。 青学大が駅伝巧者ぶりを発揮し、8度目の総合優勝を果たした。箱根の戦いを知り尽くす原晋監督の用兵の結晶だった。
山を攻略しないと「昨今の箱根駅伝では勝てない」
山上りで逆転し、山下りで突き放す。 これほど鮮やかな形で山の2区間が勝負の明暗を分けたレースはあまりお目にかかれない。原も上機嫌で振り返る。 「箱根駅伝は山上り、下り(の戦力)を持っていれば、優勝だけではなくてシード争いも優位になります。区間1位と2位以下のタイム差が一番広がりやすいのが山上り、山下り。そこを攻略しないことには昨今の箱根駅伝では勝てないでしょうね」 山を制する者が箱根を制する。この警句は、そのまま原が「体系的なものができ上がっているのが強み」と胸を張るところの、「原メソッド」の根幹のひとつだろう。 原は、さらりとこうも言う。 「ある一線を超えると諦めるんですよ。差が1分や1分半だと諦めないです」 くしくも、今年はライバル校も慌てふためく絶妙な布陣になった。原は続ける。 「(山は)経験者かどうかというのが大事です。実戦が一番。だから経験者は強い」 主役は、5区の若林宏樹と6区の野村昭夢である。この区間は若林が3度目、野村が2度目であり、ふたりの4年生が今回、ともに区間新記録で区間賞に輝いた。 とりわけ、若林はつづら折りのアスファルトを縫うように駆け、勝負の流れを一気に引き寄せた。 「先頭で来ると思っていたので、想定していなかったんです」 4区の太田蒼生(4年)から小田原中継所で襷を受け取った時、トップを走る中央大に45秒差の後れをとる2位だった。ただ、それでも若林は冷静だった。抱え込むような両腕の振りで力強く急坂を攻める。群衆ひしめく宮ノ下の温泉街を過ぎた9.5kmで中央大の園木大斗(4年)をとらえ、置き去りにした。瞬く間に首位交代を果たすと、あとは苦悶の表情を浮かべながらも、芦ノ湖のゴールに1歩ずつ進むだけだった。 「後半は全く記憶になくて……。沿道で『若林さん、ありがとう』って言葉が非常に多くて、本当に終わりなんだなって実感が湧きました」 区間新の1時間9分11秒は、卒業後に競技の第一線から退く若林にとって最高の“ラストラン”になった。高低差800m以上を一気に駆け上がる20.8kmには、若林が歩んできたすべてが詰まっていた。 競技人生において「山はどんな存在でしたか」と聞くと、言いよどむことなく答えた。 「頂点ですね。陸上をする上での最終目標が『山』で、そこで輝きたいと思って走り続けたこの10年間だったので。それ以上はないかなと思ってます」
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