物価高でチケ代高騰 二極化する「推し活」事情 これでも日本はまだ安い? #くらしと経済
「上げてみたら客が離れなかった」価格の多様化で安い興行の登場も
エンタメコンテンツ、特にライブエンターテインメントの値上がりは、この先も続くのか。 コンテンツビジネスや「推し活」消費に詳しい中山淳雄さんは、興行側の心理や市場を鑑みると「チケット代はまだ上がる」との見方を示す。 「デフレのなかで金額を上げる怖さがあったのが、(資材高騰や円安などの)理由ができて初めて(チケット代を)上げられたということだと思います。で、思い切って上げてみたら、思った以上に客が離れていかなかった。今は、フィルインする(満席になる)うちはもっと上げてみようというモードですね」 海外と比較すれば、日本はこれでもまだ安いという。 「例えば、ロンドンで『千と千尋の神隠し』が上演されましたが、1階席が日本のS席の2倍ですから。日本は海外より価格弾力性が低いんです」 「価格弾力性」とは、あるサービスの価格が変動したときに、それを買い求める人がどれくらい増えたり減ったりするかという指標のこと。「日本は海外と比べて価格弾力性が低い」とは、現在のチケット代等の値上がりで離れていったお客さんの数が相対的に少ない、ということになる。 「最前席10万円など、高い席はより高く設定するのが海外のスタンダード。ところが日本の興行大手には、伝統的に、『庶民のために』というマインドがあるんです。私自身は、高い席と安い席の差があるほうがいいと思っています。ビジネスクラスがなければエコノミークラスの値段が上がるのと同じ。日本のエンタメ業界は、払える人からは多くいただくということに慣れていないですね」 一方、中山さんの分析によれば、チケット代が1万円を超えると一見(いちげん)さんが来なくなる。そのコンテンツを好きな人が「布教」目的で友達を連れてくるということが行われにくくなるからだ。 今後は、「価格戦略の多様化が始まるのではないか」と見る。 「大手を中心に、チケット代を上げて顧客からの回収を最大化しようとするところが増えると、その反作用として、安い価格で顧客を広げようとするところが出てくるんじゃないかと思います。古い例で恐縮ですが、百年前の大正時代、娯楽の王様は落語でした。落語の木戸銭が当時だいたい25銭。そこへ、吉本興業が漫才を5銭で売ったんです。今の金額でいうと、落語が5000円だったところに、『1000円で誰でも漫才が聞けますよ』と売り込んで、ばーっとユーザーを増やしていった。そういうジャイアントキリングをする会社が現れるのではないか。そのほうがエンタメ全体が活性化しますしね」
----------- 川口有紀(かわぐち・ゆうき) ライター、編集者。1978年、広島県生まれ。演劇雑誌の編集部員を経てフリーに。主に演劇、芸能、サブカルチャーの分野で取材・執筆活動を行う --- 「#くらしと経済」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。生活防衛や資産形成のために、経済ニュースへの理解や感度をあげていくことは、今まで以上に重要性を増してきています。一方で経済や金融について難しいと感じる人も。くらしと地続きになっている日本や世界の経済について、身近な話題からひもとき、より豊かに過ごすためのヒントをユーザーとともに考えます。