物価高でチケ代高騰 二極化する「推し活」事情 これでも日本はまだ安い? #くらしと経済
「未成年が参加しにくく」「作品の質に厳しくなった」値上げの副作用
熱心に「推し活」をしている人たちは、自分が推している「界隈」(アイドルや宝塚、K-POPといったジャンルのこと)の料金システムを、ある種クールに観察している。 前出のShinさんは、「これまでよりも『推し活』にお金がかかるようになってきた」と感じている。 「旧ジャニーズ事務所のアイドルのファンは、『ファミリークラブ』という事務所運営のファンクラブに入っていました。年会費は4000円。ライブチケット代も、今思うと安かったです」
例えば、2010年から2012年までの嵐のライブチケット代は、ファンクラブ会員なら、国立競技場公演でも7000円だった。公式グッズも比較的低価格で、うちわが700~800円、ペンライトも、最近は2000円を超えるが、2010年代は1000~1500円だった。未成年でも参加しやすい土壌がファンの裾野を広げていた。 「少しずつですが、グッズの値上がりは感じます。ファンクラブの会費もばかにならなくて、V6解散後、退所した岡田准一さん、森田剛さん、三宅健さんがそれぞれファンクラブを持ったんですが、どれも年額4500円以上。残りの3人は(旧ジャニーズ事務所から継続する)ファミリークラブなので、全員分入るとこれまでの4倍以上のお金がかかってしまう。全員追いかけるのは諦めるしかないですよね」 エンタメコンテンツの値上がりは、ファンを経済力でふるいにかける。とりわけ初心者にとっての「推し」への入り口を狭めかねない。 前出の田中さんは、チケット代が高くなった分、評価に厳しくなったという。 「チケット代が高くなった分、作品のクオリティーに反映してほしいという気持ちは強くなったかもしれません。正直、キャストの演技力や歌唱力・舞台セットの質にテンションが下がることもあります。また、S席なのに後ろのほうの席だったり、見えづらい席だったりすると、以前よりもがっかりすることはあるかも。必死にスケジュール調整してファンクラブで何カ月前も前から購入しているのに、一般発売後に購入した人のほうが前の席だと、チケットの販売方法にもモヤッとします」 田中さんはそういった不満をSNSに書き込んだりはしないが、なかにはかなり辛辣な言葉で、作品に対するネガティブな意見や、座席や劇場環境への不満を書き込む人もいる。 コンテンツを供給する側にも事情がある。小劇場出身で、商業演劇や2.5次元舞台の演出も手掛ける演出家は、チケット代高騰の理由をこう語る。 「舞台にかかる経費が上がっているんです。人件費はもちろん、ガソリンの高騰で輸送代や光熱費が上がっていますし、大がかりな舞台セットが必要になるものだと、ロシアによるウクライナ侵攻と円安の影響などもあって、輸入機材や資材の価格が上がっています。特に舞台美術用の輸入木材が高騰していて、セットに木を使うものは、以前に比べて2倍のコストがかかっています」 「再演が見込まれる場合、舞台セットを保管しておく必要がありますが、倉庫の料金も軒並み値上がりしています。廃棄して新たに作り直そう、そのほうが低予算で済むから、と判断する場合もあるほどです」