なぜ朝倉未来はRIZIN異色のPPV大会で珍しい「寝技勝負」を選び萩原京平に3-0判定での”圧勝再起”を飾ることができたのか?
ボクシングの元3階級制覇王者、長谷川穂積氏の教えを受けたボクシングのトレーニングでは、左構えの朝倉のリードブローのタイミングに合わせて右ストレートのカウンターを打ち込む秘策を伝授されていた。 前に出て誘うが、朝倉は、左のハイキックをめりこませ、萩原がバランスを崩すと、この試合3度目のタックルを決めた。 「スイッチが入る前にテイクダウンを取られ、やりたいことができなかった」(萩原) 朝倉は、このラウンドは仕留めにきた。 強烈な”ヒザ爆弾”。そして萩原を押さえつけた状態から鉄槌をなんと20連打である。嵐、マシンガン、いやそれは狂気の連打だった。サイドポジションを取ると容赦なくヒジを落とす。萩原は左目の横をカットした。そして冒頭のシーンである。 リングサイドで解説していたRIZINフェザー級王者の斎藤が「総合力で勝った。作戦も良かった。強くなっている」とコメントしたが、まさにリスクを排除して勝負に徹した。 ”キラー”朝倉である。 得意の殴り合いに持ち込めなかった萩原は、「そういう展開になった方が盛り上がったが、(相手の)弱いところで戦うのがMMA。弱点を試合前に克服できなかった僕の実力不足、練習不足。向こうも確実に勝ちにきた。そうくる(組み、寝技)のは事前にわかっていたが、対応できなかったのが悔しい」と唇を噛み「シンプルに僕が弱くて相手が強かった」と勝者をリスペクトした。リング上では「やり返すから」とリベンジの意思を伝えたという。 朝倉は、試合前から「寝技勝負」を予告し「きつい試合になる」とも話していた。 「(きつい試合には)ならなかった。そんなに息も切れずに終わった。テイクダウンは取れるとは思っていたが、1回返されたくらいで立たれることもなかったので。もっと立たれて打撃の展開になって、打撃の展開からテイクダウンに行ってというのが続いたら僕も精神的にも体力的にもきつくなっていたんじゃないかなと思っていたが」 5分×3ラウンドをフルに戦っても、まだ余力が残るほどの、スタミナとパワー、そして「今まで寝技を出す機会がなかっただけで、ある程度出来る」と自信のあった組み、寝技のテクニックを朝倉は見せつけたのである。 進化の背景にあるのは、クレベル・コイケ戦の後にYouTubeで対談した元K-1王者の魔裟斗氏のアドバイスもあって始めた本格トレーニングだ。5人の”最強布陣”を組み、フィジカルは、RIZINレフェリーでもある和田良覚氏、スタミナは、魔裟斗氏、ボクシングのWBA世界スーパーフェザー級スーパー王者の内山高志らを指導した土居進氏が担当している。 8月の末に魔裟斗の紹介を受けた土居氏は、まず朝倉を専門機関に連れていき、全身の精密な体力測定を行った。 「ある意味、驚くことばかりです。これまでトレーニングは何もやっていないというのにトータルのパワーの能力は凄いものがある。だからノビシロしかないんですよ」 土居氏は、朝倉をNBAの“悪童“デニス・ロッドマンに例えた。 「練習嫌いで暴れ回る、まるでロッドマンです。スタミナはこれからですが、瞬発力に、パンチの重さ…。魔裟斗さん、内山さん、八重樫さん(元3階級制覇王者)ら、それぞれの長所をちょっとずつ集めて一人にしたような感じですね。それくらいのポテンシャルがある」 朝倉は、事前取材で、トレーナー陣から「海外でもやれると言われた」と語っていたが、その感想を伝えた一人が土居氏だった。 「ベラトールの選手を見たことがあるんですが、比べても潜在能力は引けはとらない。しっかりとトレーニングを継続すれば海外で勝負できるよ、と思わず口に出たんです」 初練習の際には、約50メートルのシャトルランを3往復しただけで息が上がり「終わりですか?」と聞いてきた。 土居氏が、「いやこれアップだよ」と答えると、朝倉は「え?」と信じられない表情を浮かべたという。これまでは、トライフォース赤坂で主にスパーリングを1、2時間行うくらいで、心肺機能を高めるような、苦しい練習をしたことがなかった。 「すべて未知の世界。だから未来君は楽しそうなんです」 継続して厳戒まで追い込めるかどうかのメンタルも、また一流ファイターの素質である。 「憂鬱。でも慣れてきた」 朝倉には苦を苦と思わぬメンタルがある。まだトレーニングを始めて1か月ほど。最低でも半年は継続しなければ結果にはつながらないと言われているが、もう朝倉が、その成果をリングで見せたのだから、ここからの進化は無限大だ。 リング上で朝倉は解説席の斎藤にこう呼びかけた。 「斎藤選手とクレベル選手の2人にやり返すために過ごしてきた。年末とかでもいいですけど、よかったら対戦受けてもらえたらうれしいです」