ドジャース対ヤンキースの頂上決戦はなぜ43年ぶりなのか 東西名門対決に懐かしい記憶も
「すれ違った」東西の両雄
43年ぶりのもう一つの大きな要因は、ヤンキースとドジャースが浮上するタイミングの「すれ違い」だろう。78年に22度目の王座に就いたヤンキースはその後次第に長い低迷期に入り、23度目の優勝は、デレク・ジーター、バーニー・ウィリアムズ、アンディ・ペティット、マリアノ・リベラ、ホルヘ・ポサダら生え抜きの若手が台頭し始めた96年。そこに、他球団の超大物だったロジャー・クレメンスやアレックス・ロドリゲス、松井秀喜らを効果的に補強し、14年間にワールドシリーズ出場7度、優勝5度という黄金期を迎える。 しかし、超一流に育った生え抜きのジーター、リベラらがピークを過ぎると、トップ戦力の維持は難しくなった。今回、自らの組織で育ったジャッジを旗印として15年ぶりのワールドシリーズにたどり着いたのは、育成の重要性を改めて印象づける。 一方のドジャースは81年に5度目、88年に6度目の頂点に立った後、次のワールドシリーズ出場まで19年、20年の同制覇まで32年かかった。この間、野茂英雄投手らの在籍期間を含め、リーグの強豪チームにはね返される歴史が続いた。経営悪化に伴うオーナーの交代も。経営が安定して近年は巻き返し、今季で12年連続のプレーオフ進出ながら、頂点はコロナ禍で短縮シーズンとなった20年の一度だけで、ここ一番での勝負弱さを払拭(ふっしょく)したとは言い難かった。今季は「ヒリヒリする9月、10月を送りたい」と勝利を渇望して加入した大谷がけん引して確実に一皮むけた印象があり、「すれ違い」を重ねてきた東西の名門激突の舞台が整った。
日本のオールドファンにも懐かしいカード
43年ぶりに激突するドジャースとヤンキース。米球界での盛り上がりはもちろん、古くからの日本の大リーグファンにとっても、特別な懐かしさを覚えるカードではないか。というのも、両者がこの前に頂上決戦を戦った77、78、81年が、当時の日本の大リーグファンにとって、かなり特別な期間だったからだ。 77年のワールドシリーズはNHKが録画で放送。第1戦は夜のゴールデンタイムのオンエアだった。いずれもフル放送ではなかったが、秋の日米野球や専門誌のリポートでしか知り得なかった大リーグに関し、覇権を懸けた真剣勝負が実際の映像としてお茶の間に届けられた衝撃は大きかった。翌78年から81年の4年間は、フジテレビがレギュラーシーズンを含め、好カードなどを随時録画放送。当時米国在住だった日本初の完全試合投手、藤本(中上)英雄さんや長嶋茂雄さんらがゲスト解説を務め、国際通の正統派、岩佐徹アナウンサーが熱戦の模様を伝えた。 この77-81年の5年間中、3度もワールドシリーズで争ったのが、ドジャースとヤンキースだった。それゆえ、学生だった筆者にも強烈な印象が残り、「大リーグ視聴・観戦」の原点とも言える日々になった。ヤンキースには大一番に強くて「ミスター・オクトーバー(10月)」と呼ばれることになる強打レジー・ジャクソン、現役中に自家用機の事故で亡くなった名捕手サーマン・マンソン、後にメッツで監督を務めた二塁のウィリー・ランドルフ、細身の剛球左腕ロン・ギドリー、イチローの現役時代のマリナーズ監督としても知られる外野のルー・ピネラらがおり、ドジャースでは紳士然とした一塁手スティーブ・ガービー、後に名監督となるダスティ・ベーカー、個性的な走り方で「ペンギン」と呼ばれ、後に「刑事コロンボ」にも出演した三塁手ロン・セイ、後年ブルワーズを率いた二塁のデイビー・ロープスらがおり、81年の優勝には、先日亡くなった左腕フェルナンド・バレンズエラ投手が大きな役割を演じた。 ◇日本で放映された5年間で3度の決戦 日本とはひと味もふた味も違う選手の個性的なフォームや立ち姿、球場の雰囲気に目を凝らした印象がある。77年の第6戦で3打席連続本塁打を放ってヤンキースを優勝に導いたジャクソンがベンチに戻って指を3本立てたシーンなどは鮮明に記憶している。後に巨人に移籍するロイ・ホワイト、レジー・スミスも、この期間にヤンキース、ドジャースでプレー。来日が決まったときには、「あの選手が来るのか」と興奮したものである。78年の第4戦では走塁中にわざと尻を突き出したように見えたヤンキースのジャクソンの体に内野手の送球が当たって失策を誘い、それをきっかけにシリーズの流れが大きく変わる「事件」も起きた。 日本での大リーグ放送は81年で中断。87年にNHKが衛星の試験放送で再開するまで、長い空白期間があった。配信や衛星放送で当たり前のように視聴可能な現在では想像もできないだろう。筆者はこの間、プレーオフ大詰めの重要な試合などは、FEN(現AFN=米軍放送)のラジオで必死に生中継を聴いていた。そんな経験があるだけに、久々に実現した両チームの頂上決戦に感慨もひとしおだ。50代後半以上の昔ながらの大リーグファンなら、その気持ちが分かっていただけるかもしれない。