独走許さぬメジャーの「共存共栄」哲学

ワールドシリーズ進出を決め、喜ぶドジャースの大谷翔平（右）と山本由伸＝10月20日、アメリカ・ロサンゼルス【AFP時事】

　東西の大都市をフランチャイズとする両名門球団が、なぜ42年間もワールドシリーズで対戦することがなかったのか。それにはさまざまな要因があるだろうが、大きな背景として二つが考えられる。 　一つ目は、大リーグの「共存共栄」の哲学である。アメリカ社会というのは、自由競争、弱肉強食の象徴として知られる。だが、非常に興味深いことだが、伝統のプロスポーツは、まったく逆の政策を貫いている。大きな市場規模や、富豪のオーナーを抱えるチームの富による独走を許さない。 　チームの年俸総額が一定額を超えると、ぜいたく税なる「罰金」が徴収される。テレビの全国放送の放映権はリーグが一括管理し、各球団の収益の一部を全体に分ける収益分配制度を実施。新人選手を獲得するドラフトは下位チームから指名するウエーバー方式を基本としてきた歴史があり、常に「戦力均衡化」による活気ある競争を目指しているのだ。 　「落ちこぼれチームを出さず、中堅都市をフランチャイズとするチームのファンにも希望を持ってもらう」ことを重視、それによって多くのチームにチャンスがある状況を創出し、リーグ全体の繁栄を常に考えている。富めるチームは、一度に大きな資金が必要となる大物選手の獲得には有利ではある。ただ、特定のスターにあまり大金を投じると、他の選手たちには、あまりお金をかけられない状況に陥る。チームの編成担当者は常に各選手との契約内容を精査しながら、効果的なチームづくりを探る。資金力のある名門、強豪の数チームが大型補強を続けて常に上位をキープできる日本球界や欧州のサッカー界などとは、かなり構造が違うのだ。 　実際、ワールドシリーズ連覇は、1998－2000年に3連覇したヤンキースが最後。21世紀では皆無だ。今世紀に入り、ダイヤモンドバックス、エンゼルス、アストロズ、ナショナルズ、レンジャーズが初優勝を経験。カブスは108年ぶり、レッドソックスは86年ぶり、ホワイトソックスは88年ぶり、ジャイアンツが56年ぶり、ドジャースも32年ぶりの優勝を果たしている。15年に30年ぶり2度目の王座に就いたロイヤルズなどは、かなり市場規模の小さいチームだ。効果的なチーム編成で多くのチームに浮上のチャンスが生まれる一方、大型補強をすれば反動があり、「ダイナスティ（王朝）」と呼ばれるような黄金時代を築くことは難しくなっている。