「髪に問題を抱え、生きづらさを感じている人がたくさんいる」――ヘアドネーションから見える社会
「ヘアドネーション」という取り組みを知っているだろうか。寄付された髪の毛でウィッグを作り、脱毛症や小児がんの治療をする子どもたちに無償提供することだ。がん患者の心のケアに携わるある臨床心理士は「外見の悩みは、社会との関係性、人間関係の悩み」だと語る。ウィッグを受け取るレシピエント、提供するドナー、美容師、医療従事者らに話を聞くと、「外見と生きづらさ」の問題が見えてきた。(取材・文:城リユア/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/取材協力:岡見京子)
「髪の毛がなくても人生なんとかなる」と思えるまで
高校1年生の佐野心咲(みさき)さん(15)は、小学6年の3月に突如、汎発性脱毛症を発症した。脱毛のスピードは速く、中学に入学した後には一度、全身の毛がほとんどなくなってしまったという。 「朝起きると枕に髪の毛が大量についていて、ショックでした。通学中も含めて周囲の視線がすごく気になりました。小さい頃から自分を表現することが好きだったけど、髪の毛がないと逆の意味で目立っちゃって、自分に自信が持てなくなりました」(心咲さん) 脱毛症の種類はさまざまで、原因も解明されていない。病院で治療を開始した後、母親の智子さんは、特定非営利活動法人「JHD&C(以下、ジャーダック)」が18歳以下の子どもたちにウィッグを無償提供していると知り、すぐに申し込んだ。 「例えばもし電車の中に髪の毛のない子どもがいたら私もつい見てしまうと思うし、そういう視線を心咲が浴びるのかと思うとつらかった」(母・智子さん)
心咲さんは智子さんにウィッグを勧められ、当初迷いはあったものの、着用を決めた。 「初めてウィッグで登校した日は不安でちょっと泣いてしまいました。人にどう思われるか、すごく気になっちゃって。でも友達は『全然そんなの気にしないよ』『髪の毛がなくても心咲ちゃんは心咲ちゃんだから』と優しい言葉ばかりかけてくれた。先生も『誰にもひどいことは言わせない。安心して、学校に来てくれればいいよ』と寄り添ってくれました。髪の毛を巻いてオシャレできるようにもなって……とにかくいろいろうれしかったです」(心咲さん) 智子さんは、自信を取り戻した娘を見てほっとした半面、複雑な気持ちになったと告白する。 「これって心咲のありのままじゃないというか。例えばウィッグが取れた時、取った時、はたしてみんなはどう思うのだろう、とか。やっぱりウィッグに頼るだけでは違うんだろうなと。だから本人にとっては厳しかったかなと思いますが、気の持ち方についてくり返し話しました」(智子さん) 「世の中にはもっとつらい人がいるんだよ。髪の毛がないだけでしょ?」 「心咲には人を笑顔にする才能があるんだから、髪の毛がないことなんか気にしなくていい」