「髪に問題を抱え、生きづらさを感じている人がたくさんいる」――ヘアドネーションから見える社会
心咲さんは、母の言葉でプラス思考になれた。 「髪の毛がなくても人生なんとかなる。ない状態の自分をどう好きになってもらうか、どうしたら自分が気にしないでいられるか。考える力もついたと思うし、自分の態度一つで世界が変わるということも分かった。周りの人が支えてくれたから、感謝を忘れずに過ごせる。すごく気にしてるのは自分だけ。だから、楽しめればいいかなって感じです」(心咲さん) 現在は対症療法がうまくいき、ウィッグはつけていない。根治にいたる治療法は確立されていないため、「一生、治療を続けるのか」という不安も抱えている。しかし、彼女はこう言った。 「髪の毛がないことで目立つのは少し嫌だったけど、笑顔で記事に出ることで、私と同じ状況の子にも、髪がなくても楽しめるんだよと知ってもらいたいです」(心咲さん)
「男性は髪が短いもの」という暗黙のルール
「いいことをしようと意気込んでいるわけでは全くない」 そう話すのは、初めてウィッグに髪を提供するドナーになるべく、3年半前から髪を伸ばしている葛西清孝さん(41)だ。いま長さは50センチ以上。来春の寄付を目指している。 「内装業という職業柄、ロングヘアのほうが結べて働きやすいんですよ。僕の世代は高校時代にキムタクの影響でロン毛が大流行したけど、僕はやらなかった。一度くらいロン毛にしてみたかった」 動機はいたってカジュアルだ。きれいに髪を伸ばす方法をネットで調べていたら、ヘアドネーションに関する記事を見つけて、興味を持った。 「困っている人がいるなら、じゃあ、その人のためになれればいいかなくらいの軽い気持ち。人助けをしてえらいなんて褒められると正直居心地が悪いですね」
友達からは「お前、似合わないからやめろ」と不評だが、「お兄ちゃん、きれいな髪してるね」と見知らぬ人に話しかけられるなどユニークな出会いもある。 「髪を伸ばしていると目立つし、話のネタとして面白がられればいいと思う。あえて勧めることはしないけど、もしかしたら、僕を見た人から話がつながってドナーになる人も現れるかもしれない」 「男性がロングヘアにしていると、怪しむような視線で見られることがたまにあります」 ヘアドネーションのドナーに占める男性の割合は約1%。葛西さんは「男性は髪が短いもの」という、暗黙のルールのようなものを肌で感じている。 「別に髪を伸ばしたことで僕の人格が変わるわけじゃないし、『人がどう思おうと好きな生き方をしていい』と平然としています。会社勤めの男性が髪を伸ばすのはハードルが高そう。ビジネスの世界で影響力のある男性がロングヘアにしたら、社会の空気も変わるかもしれませんね」