松下洸平さん「フキサチーフ」インタビュー 僕の言葉を探してつむぐ、率直な今の思い
俳優でアーティストの松下洸平さんが、初めての著書『フキサチーフ』(KADOKAWA)を12月13日に刊行しました。2021年から月刊誌「ダ・ヴィンチ」で連載した文章に、2編の書き下ろしを加えた本書。多忙な日々で感じた不安やホッとしたひとときなど、日常でおこった出来事や思ったことに「。」をつけることで整理し、その時々の感情を丁寧にすくい上げたエッセイです。文章のほか、表紙や中面のイラストも手掛けた松下さんに、本書に込めた思いなどを聞きました。(文:根津香菜子 写真:有村蓮) 【写真】松下洸平さんインタビューカットはこちら
文章でしか伝えられない思い
――タイトルの「フキサチーフ」とは絵画用の定着液のことだそうですね。毎回どんなテーマで書くか、どうチョイスしていたのでしょうか? 月1回の連載だったこともあって、できるだけどの回とも被らないテーマを選ぶようにしていました。基本的には毎月あった出来事を書くようにしていましたが、同じようなことが続いてしまったときは、過去のことや家族の話、最近感じたことなど、なるべく仕事のことばかりにならないように心がけていました。 ――「このことについて書こう!」と決めた後は、どのような作業をしたのですか。 僕は文章のプロではないので、ある程度書き終えてから担当編集さんに読んでいただき、修正点や読みやすい書き方などを教えてもらいながら書いていました。僕はただ書きたいことを書くことしかできなかったのですが、連載が進むにつれて「こういう風に表現するとより僕の思いが伝わるな」「書き方によって伝わり方は全然違うんだな」ということを学んだので、後半からはそういう部分も意識しながら書いていました。 ――エッセイを書いてみたことで改めて知るご自身の「意外な一面」や、演技などとは違う「表現」の面白さを感じたことがあれば教えてください。 文章でしか伝えられない思いってあるんだなと思いました。役者もシンガーソングライターも、基本的にはものを作って発信する仕事をしているので、そこに僕自身のパーソナルな思いは多少乗っかるのですが、ここまで赤裸々に今思っていることや感じていることを書けるのって、文章だからできることなんだなと思います。ある種、手紙みたいなもので、顔が見えないからこそ普段はあまり言えないことを書けることと同じような感覚で、このエッセイでしか書けない自分の思いがあることをいつも感じていました。 ――ご自身の思いを書くうえで、気をつけていたことはありますか? つらいとか悲しいとか大変とか、少々マイナスになってしまう感情もここだから書けたわけですが、僕がこのエッセイを書くうえでひとつ決めていたのは、つらいや悲しいだけで終わらせたくないということでした。僕自身がなるべく悲しいことを悲しいままで終わらせたくない性格なので、どんな章でも最終的には前を向いて「いろんなこともあるけど、頑張ろう」と思いたいし、それが読み手の方にも伝わるといいなと思っていました。