松下洸平さん「フキサチーフ」インタビュー 僕の言葉を探してつむぐ、率直な今の思い
文字にして自分もスッキリ
――先ほど「手紙を書いているようだった」とお話ししていましたが、読者の方に向けた気持ちのほかに、ご自身と対峙しているようなところもあったのでは? 書きながら「あ、今自分ってこんなこと考えているんだな」と思うことはありました。目まぐるしく変わっていく日々の中で自分と向き合うきっかけにもなったし、自分自身が考えていることの整理整頓にもなっていたような気がします。それも文章だからできたことでした。 最終的な落としどころとして、起承転結の「結」を作らなければいけないのですが「じゃあ自分はこれからどうしたいんだろう」という「結」が毎回、自分にとって今出せる答えでした。答えって、考えているだけだとあまり出なくて。だからこそ、文字にすることで自分もスッキリしていたので、僕にとってこの連載はとても大切な時間と経験だったんだなと思います。 ――本書の中で「僕は言葉をあまり知らない」と書いていましたが、今回のエッセイや歌詞でも素敵な言葉をたくさん使っているなと感じます。そんな松下さんの中にある言葉の数々は、一体どこからインプットされたのでしょうか。 よくプロの作家さんたちが、ある出来事を僕の知らない言葉で例えて、とても素敵な世界を表現されているけれど、僕にはそれができないので、自分の知っている言葉の中から紡いでいくしかないんです。なので、その言葉が自分のどこから来ているのかを考えてみると、歌詞の世界と少し似ているのかもと思いました。「今思っているこの気持ちをどう表現しようかな」と、知らないなりにいつも言葉を探していたような気がします。 引き出しの中を開けても、結局は自分の知っている言葉しか入っていないので、そこから何を選ぶか、限られた言葉の中からどれを使おうかということは毎回考えていました。きっと僕が37年生きてきた中で、誰かから聞いた言葉や話していて感じたことが引き出しの中に詰まっているので、そこから選んでいました。 だけど、ときにはちょっとかっこつけて難しい言葉も使ってみたいじゃないですか。でも、そういう言葉を使うとすぐに担当さんが「松下さんはただ難しい言葉を使いたいだけだ!」と敏感に反応してくるんです(笑)。なので、僕が知っている言葉で紡ぐしかない。となると、単純だけどストレートな言葉が自然と多くなったんじゃないかなと思います。 ――言葉を探す中で、影響を受けた作家さんはどなたかいらっしゃいますか。 これまで多くの台本や戯曲に触れてきて、素敵だなと思う表現や書き方をされる方はたくさんいましたが、そういう人たちの言葉を真似て書こうとすると、担当編集さんはもちろん、読者の方にも「作家っぽく書きたいだけなんじゃない?」って分かってしまうと思ったので、なるべくほかの人の書き方は参考にしないようにしていました。 そんな中でも、僕は井上ひさしさんが好きで、作品もたくさん拝見して、戯曲もやらせていただいたのですが「難しいことを優しく」「悲しいことを愉快に」といった考え方やもののとらえ方がとても好きなんです。井上さんの作品は戦前、戦中、戦後の話が多いのですが、その物語に登場する人たちがみんな笑顔なんですよね。その裏には、貧しさや苦しさを抱えながらも健気に笑顔で生きようとする庶民の人たちがたくさん出てくるんです。そういう作品にずっと触れてきているので、井上さんの影響は多少あるかもしれないです。