松下洸平さん「フキサチーフ」インタビュー 僕の言葉を探してつむぐ、率直な今の思い
「温もり」が擬人化した「脳内先生」
――連載の中でも「お腹が痛くなった時」の回のエピソードは私も同じような経験をしたことがあるので、特に印象に残っています。腹痛を起こした松下少年の前に「脳内先生」が現れて「大丈夫」と言うのですが、その奥にある気持ちをご自身ではどんなものだと思いますか。 子どもの頃、腹痛を起こすと母がお腹をさすってくれたのですが、その手の温もりで治った気がするんですよ。それはお腹が痛い時に限らず、心が痛い時や寂しい時、それを助けてくれるのは誰かの温もりだと思ったんです。お腹が痛くてトイレの中でのたうち回っている時って、とても孤独なんですよね。その小さな孤独の世界の中で「大丈夫」と言ってお腹をさすってくれる人が、今の僕には必要だと思った。そんな時に現れたのが、優しい顔をした「脳内先生」でした。 小学生のある冬に、僕が風邪ひいて家で寝込んでいると、母が仕事の合間に様子を見に帰ってきてくれたこともありました。寒い中急いで帰ってきたから、着ているコートに冷たい匂いが残っていて「僕のために、急いで帰ってきてくれたんだな」というその優しさで安心して、それが薬になったような気がするんです。その時「人の痛みは人で治る」「誰かがそばにいてくれることが一番の薬なんだ」と思いました。なので、その時「脳内先生」が現れたのは、そんな記憶がきっかけになった気がします。 ――「笑顔バトン」の回も含め、本書には度々「笑顔」というワードが度々登場します。誰かの笑顔で元気になったエピソードや、あとがきの締めの一文にも「笑顔」という言葉を用いていますが、例えば今、何らかの理由で笑顔を忘れてしまった人に「脳内先生」に代わってどんな言葉をかけますか。 根本的な解決に至るかどうかでいうと、結局脳内で完結できることはあまりないと思うんです。例えば二つの道があったとして、そのどちらを選択して一歩を踏み出すのかを決めるのは自分自身なので、答えを教えてくれることは少ないのですが、僕は悩んだりくじけたりした時、もう一人の自分と話すことがあって「君はどうしたい?」って聞いてみるんです。そこに割と答えがあることが多いので、その相手が誰であろうと、誰かに話すということがめちゃくちゃ大事だと思うんですよ。一人で悩まない、苦しまないことがとても大切だと思います。 ――もし直接相談や話ができる人がいなくても、自分の中の「誰か」でもいいんですね。 僕は誰にも話せないことなんてないと思っているんです。そう思えば思うほど孤独になってしまうから、僕のように脳内で作り上げた「誰か」と話すことでもいい。どんなに些細なことでも恥ずかしいことでも、聞いてくれる人は必ずいると思います。「どうせ分かってもらえない」と思ってしまうことが良くないと思うんです。 僕は悩むことも壁にぶつかることも多い方なのですが、本書の帯文に「“全然孤独じゃないスター”を目指したい」と書いたように、悩んだりつらいことがあったりしたときは、とりあえず誰かに相談して、一人では決めないようにしています。なので、この本が誰かにとってそう思ってもらえるきっかけになったらといいなと願っています。 <松下洸平(まつした・こうへい)さん プロフィール> 1987年生まれ。東京都出身。2008年、洸平名義でシンガーソングライターとしてデビュー。翌年より俳優活動を始め、NHK連続テレビ小説「スカーレット」でヒロインの夫、八郎役を務め人気を博す。近年の主な出演作にドラマ「最愛」、「放課後カルテ」、大河ドラマ「光る君へ」、映画「ミステリと言う勿れ」、舞台「母と暮せば」などがあるほか、25年1月22日から始まる主演ミュージカル「ケイン&アベル」が控える。
朝日新聞社(好書好日)