“新幹線一本足打法” JR東海、収益構造の特殊性
2027年の品川―名古屋間の開業延期が不可避となったリニア中央新幹線。直接の理由は、南アルプスのトンネル工事で大井川の水量が減ることへの懸念が払拭されないとして、静岡県が県内工区の着工を認めていないからだ。県が強硬な姿勢を見せる背景には水問題だけでなく、(1)東海道新幹線「のぞみ」が県内に止まらない(2)富士山静岡空港の下に新駅をつくらない(3)リニアは通過するだけ――というJR東海の三つの“静岡飛ばし”への怨念が根底にあるように見える。既存の東海道新幹線、品川―名古屋間約360キロメートルのうち、静岡県内は熱海―浜松駅間だけでも約150キロメートルあり、実に総距離の約42%を占める。にも関わらず、なぜJR東海はここまで静岡軽視と言える態度を取ってきたのか。その背景には、東海道新幹線の圧倒的な収益力に頼るいびつな収益構造がある。
いびつな収益構造
20年3月期決算でJR東海の営業利益は、新型コロナウイルスの影響で前年度を下回ったものの、約6500億円で、JR各社の中でも最も多い。リーマンショックから立ち直った13年度以降、売上高、営業利益とも好調で、過去最高を更新し続けていた。JR各社の売上高だけを見れば、JR東日本が約2兆1000億円で、JR東海の約1兆8000億円よりも多い。しかし、JR東日本は、広範な地域を在来線でカバーし、鉄道事業以外からの収入も多いため、全体の売り上げは多いが、営業利益、利益率では逆転する。これは、JR東海が赤字路線の多い在来線の割合が少ない一方で、ドル箱の東海道新幹線を運行しているからだ。 JR東海の東海道新幹線による運輸収入は20年3月期決算では、1兆2613億円。在来線を含めた全体では1兆3656億円のうち実に92.3%を占める。JR各社と比較しても、この数字は突出している。同期の決算で、JR東日本は新幹線の収入が5655億円で全体の約32%、JR西日本は4412億円で約51%だ。