なぜ静岡県はリニア着工に反対するのか? 透けて見えるJR東海への怨念
「着工は認められません」――。6月26日、川勝平太静岡県知事がJR東海の金子慎社長とのトップ会談後にこう発言した瞬間、予定されていたリニア中央新幹線の2027年の開業延期が事実上、決定的となった。静岡県が着工を認めないのは、トンネル工事で南アルプス(南ア)の地下水が漏れ、県中西部を流れる大井川の水量が減少するという「水問題」が表向きの理由だ。だが、問題の根源をたどると、JR東海の度重なる“静岡飛ばし”に対する地元の根深い怨念が見えてくる。
表向きは「水問題」だが……
会談から20日後の7月15日の定例会見。金子社長は新たな開業時期の設定には言及しなかったものの、「2027年の開業は難しい」と、初めて公の場で発言し、「白旗」を上げた。新聞、テレビなど各マスコミでも取り上げられたこのトップ会談と一連のリニア開業延期問題。静岡県とJR東海の間で、何が問題となっているのか。まず、延期の理由となった静岡の「水問題」について簡単に振り返っておこう。 予定されている静岡県内の工区は8.9キロで、南アの真下を全てトンネルで通る。トンネル工事やトンネルが完成すると、湧水によって南アの地下水を源泉とする大井川の水量に影響が出るのではないか、と懸念されている。事実、JR東海も何も対策を講じなければ、毎秒2トンの水が失われると試算。そうならないようトンネルの湧水をポンプでくみ上げ、導水路で水を川に戻すなどと主張している。 県が本格的に反対に回ったのは3年前。当時、湧水を大井川に全量戻すと明言しないJR東海に対し、川勝知事が「堪忍袋の緒が切れた」として態度を硬化させた。議論は平行線をたどり、今年の4月から国土交通省が仲介する形で、湧水を全量戻せるのか、大井川への地下水の影響はないのかを評価する有識者会議が開かれている。県側は湧水を全量戻し、大井川に影響が出ないという科学的な根拠が有識者会議などで出てからでなければ、工事着工を認めない考えだ。 県が、着工を認めなかったのは、トンネルを掘るために作業員の詰め所や電気設備などを設置する「ヤード」を整備するための工事のこと。既にJR東海は一部整備をしているが、県は今以上の工事は「トンネルを掘るための本体工事と一体」とみなし、認めていない。工期から逆算すると、6月中にこのヤードの整備の続きを始めないと27年の開業に間に合わないため、JR東海は県に着工の許可を求めてきた。 一見、県が水という環境問題で反対しているように見えるが、ことはそう単純ではない。リニアが県の北端、南アルプスを通るルートが決まったのは10年前。川勝知事自身が「自分はリニア推進派」と自認しており、当時は静岡がここまで反対するとは思われていなかった。確かに、流域人口が60万人以上にも上るとされる大井川の水量が保たれるかは大きな問題だが、県民や川勝知事にとって、水問題はきっかけの一つで、長年、JR東海に「こけにされてきた鬱憤(うっぷん)が爆発した」(地元紙記者)との見方がある。