なぜプーチンやトランプは支持を集めるのか 両者の人気の背後に浮かび上がる「怨念」とは
2024年アメリカ大統領選挙の共和党指名争いで、トランプ前大統領が人気を集めているようです。また、ロシアではウクライナへの軍事侵攻を行ったプーチン大統領の支持率が高い状態が続いています。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「どちらも好戦的な人物で、われわれ外部の人間からは特異な性格と映るが、奇人変人として済ますわけにもいかない」と指摘します。若山氏が独自の視点で語ります。
プーチンとトランプの地政的な力学
このところ世界を混乱におとしいれた二人の男がいる。ロシア連邦のプーチン大統領とアメリカ合衆国のトランプ前大統領である。 どちらも好戦的な人物で、われわれ外部の人間からは特異な性格と映るが、奇人変人として済ますわけにもいかない。なぜならプーチンはロシア国民に、トランプはアメリカの共和党支持者に、いまだ大きな支持を得ているからだ。ロシアとアメリカは、かつて世界を二分した先進的な文明をもつ(とされた)国家であり、他の国々にも大きな影響を与えてきた。ここでわれわれはもう一度、人間と国家と文明の関係を考えなおす必要があると思われる。 ロシアもまたアメリカも、大陸的ともいうべき広大な領土を有する国である。そこには、日本のような島国からは想像できない、さまざまな「地政的な力学」がはたらいているのではないか。そしてその力学は、歴史をつうじてその大地に蓄積された精神的な応力(ストレス)が基本になっているような気がする。「文明への怨念」といってもいい。 誰の行動にもそれなりのバックグラウンド(直訳「うしろの土地」)があるものだ。
文字文明への怨念・先住民と少数民族
アメリカという国家が誕生したのは1776年、きわめて新しい国である。 またロシアという国家が誕生したのも1721年、ピョートル大帝が大北方戦争に勝利してからといっていい。ピョートル以前のロシアは、東ローマ帝国の文化を受け継ぐキエフ・ルーシの北東の公国あるいはツァーリ国というような部族国家的存在で、その意味ではウクライナの方が本家であるという見方もできる。 大航海時代のあと、西欧の海洋国がアメリカ大陸をはじめとする新世界を植民地化するのは16世紀であるが、ロシアもまたこのころから、領土を東方に拡大し、シベリア先住民のアジア系民族を支配下に置く。西ヨーロッパが海を介して行ったことをロシアは陸上で行ったのだ。その後アメリカは西へ西へと西欧文明を拡大し、ロシアは東へ東へと東欧文明を拡大した。その源泉は、もちろん組織化された武力である。 シベリア先住民は、遺伝的にアメリカ先住民(いわゆるインディアン、インディオ)にきわめて近いという。もともとアメリカ先住民の祖先がベーリング海峡を渡っていったのだから理解できる。おそらくは日本人ともそう遠くはないだろう。そして西欧系アメリカ人、東欧系ロシア人の、先住民征服は大いなる略奪と虐殺を伴うものであった。文字をもたない先住民族にとって、文字文明は過酷な衝撃であった。その大地には文字文明に対する怨念が眠っているのだ。村上春樹のデビュー作ではないが、われわれは彼らの「風の歌」を聴く必要があるように感じる。 また現在のロシアには非常に多くの(180を超えるとされる)少数民族がいる。アメリカにも移民としての少数民族が多くいる。そして彼らは、民族固有の言語とは別に、ロシアにおいてはロシア語を、アメリカにおいては英語を話さなくてはならない。この二つの国の広大な大地には、言語と文字に関するルサンチマン(怨念)が鬱積している。