なぜプーチンやトランプは支持を集めるのか 両者の人気の背後に浮かび上がる「怨念」とは
電子文明への怨念・デジタルデバイド
現在のロシアが、軍事大国ではあっても、またサイバー攻撃を多用することはあっても、社会全体が西側のようには電子化されていないことは、ウクライナ戦争でも明らかになった。民間技術全体の層が薄いのだ。こういった社会には当然、デジタル技術を駆使できる人間とそうでない人間の、いわゆるデジタルデバイド(情報格差)によるルサンチマン(怨念)が鬱積する。 トランプは「ラストベルト(錆びついた地帯)」と呼ばれる旧い重工業地帯の人々の支持を受けている。そこにはGAFAMと呼ばれるようなデジタル企業(ビッグテック)に対する怨念が充満している。アメリカ大統領選挙の報道における民主党の支持を示すブルーと、共和党の支持を示すレッドは、東西両端部と中央部とに分断されていた。かつての北部の工業化に対する南部の怨念に代わり、西海岸と東海岸のデジタル先進性に対する内陸部の怨念が、トランプを支持している。 たしかにプーチンもトランプも特異なほどに好戦的な人間で、政治責任のある人物の性格がいかにその国家と周辺国に影響を与えるかという例であるが、その思想と行動と国民の支持の背後には、ロシアとアメリカの広大な国土に染み込んできた歴史的な人間集団の怨念が浮かびあがるのだ。 しかしながら、ここまで書いてきたことは、プーチンやトランプの行為の正当化ではない。明らかに2021年1月6日の米議会襲撃は民主主義の冒涜であり、ロシア軍が行ったブチャの虐殺や多数の子供の連れ去りや核兵器による恫喝などは人道的にも許されるものではない。 僕は、人間とその文化の力学的(客観的)な分析と、社会に対する意見の表明と誘導を、分けて考えたいのだが、ジャーナリズムには両者の一致に向かう傾向があるようだ。学術的な論説と報道的な論説の違いというべきか。 いずれにしろ、歴史は怨念の力学に動かされる。 人間は都市化する動物であり、脳の外在化を進める動物であると同時に、その反力として、心に嫉妬と怨念を抱く動物でもある。