「駅前タワマン」計画目白押し 巨大ラビリンス化する東京は文明の頂上か、墓場か? 理念なき都市計画が生んだ「新しいタイプの世界都市」
今年の1月1日時点の住民基本台帳をもとにした総務省のまとめによると、東京都の日本人の人口が2年連続の減少となったようです。しかし、日本人と外国人を合わせると、東京都は全国で唯一人口が増加しているようで、「駅前タワマン」の計画も目白押しです。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「今の東京は都心だらけ、多都心複合型の街」と指摘します。この先、東京はどのような都市になっていくのでしょうか。若山氏が独自の視点で語ります。
戸越銀座の都心化
先日、友人たちと戸越銀座(品川区、東京都内で最も長い商店街があることで知られる)で飲んだ。僕は東京の南西部で育ち、高校も大学も南西部だったので、このあたりの地理に詳しく友人も多い。同じ東京でも北東部はサッパリだ。 「戸越銀座も都心化したなあ」というのが、一致した感慨だった。実際、この戸越銀座はテレビでもよくとりあげられ、近くの戸越公園の駅前にもタワーマンションの計画がある。高校のあった武蔵小山にもタワマンが建ち、今、東京のちょっとした駅には「駅前タワマン」の計画が目白押しなのだ。 明らかに小さな都心化が進んでいる。「準都心」といってもいい。そう考えたら、すでにそういう言葉があるようだ。かつて新宿を「副都心」と呼んだが、渋谷も池袋も副都心で、現在はさらに増えているようだ。そして「さいたま新都心」「幕張新都心」「横浜みなとみらい21」などが「新都心」だという。要するに今の東京(=首都圏)は都心だらけ、多都心複合型の街になっているのである。 東京に住む人は、だいたい自分の近くの都心に集まり、離れた都心にはあまり縁がない。
3D迷宮都市・渋谷
渋谷にもよく行く。おそらく東京でも最大の変化が起きている街だろう。名のとおり谷底のような地形で、西は道玄坂、東は宮益坂と周囲が高台になっている。昔はJR山手線と東急東横線が高架で、日本最初の地下鉄である銀座線は、青山の高台から渋谷の谷に入るときに地下から空中に出るので、子供心に「あんなに高いところを走る電車がなぜ地下鉄と呼ばれるのか」と思ったものだ。 それが今は、地下5階に東急東横線と東京メトロ副都心線が入り、地下3階に東急田園都市線と東京メトロ半蔵門線が地下3階が入り、空中の2階から4階に、JRの山手線、埼京線、湘南新宿ライン、東京メトロ銀座線、京王井の頭線のホームと改札口(地上階にもある)が交錯している。これらはその周囲の高層ビルとつながっているから、人々はエレベーターとエスカレーターを駆使して移動することになる。地下街も広がって、有名なハチ公広場やスクランブル交差点に出ることなく、目的地に向かうことができる。 工事はまだまだ続くようだが、この街の空間構造を完全に理解している人は、東京人でもほとんどいないだろう。毎日通う人も自分の通るべき道を知っているだけで、たまに来る人は案内板と案内図に頼るほかない。 街が完全に立体化しているのだ。マンハッタンのように単にビルが高層化したというのではなく、下部の方がジャングルの植物のようにつながって、ほとんど迷宮(ラビリンス)化している。若いとき、モロッコのフェズやマラケシュといった街の「メディナ(旧市街)」を旅して、その迷宮性に魅了された経験があるが、渋谷は、現代技術を駆使した巨大なメディナと化しているのだ。新宿も、品川も、東京駅周辺も、街が立体的に巨大化し、東京は3D迷宮都市といっていい。