明治神宮外苑の再開発 大手デベロッパーの「ありきたり」にウンザリ 今の東京に必要なワクワク感を生むのに最適の人物とは?
東京都心の明治神宮外苑地区で再開発事業がスタートしています。神宮球場と秩父宮ラグビー場の位置を入れ替えて建て替え、二つの高層ビルを新築する計画ですが、多数の樹木伐採を伴うこの事業に対しては、環境破壊であるなど懸念の声があがっています。 建築家で、文化論に関する多数の著書で知られる名古屋工業大学名誉教授・若山滋氏は、「現在の神宮外苑の再開発計画に賛成する気にはなれない」といいます。しかし、その理由は単純な環境破壊という観点ではないようです。若山氏が独自の視点で語ります。
東京を象徴する「緑と文化の十字路」
東京のど真ん中、神宮外苑の再開発に大きな反対運動が起きている。 理由は、主として樹木の伐採による自然破壊であるようだ。 事業主体は、明治神宮、日本スポーツ振興センター、伊藤忠商事、三井不動産で、老朽化した野球場とラグビー場の建て替えとともに、いくつかの高層ビルが建設されるのだが、これは東京都が2018年に策定した「東京2020大会後の神宮外苑地区のまちづくりの指針」に基づいている。 反対運動の署名は相当の数に達し、少し前に亡くなられた音楽家の坂本龍一氏、文学者の村上春樹氏も、強い反対の意を表している。この二人の作品は僕個人としても高く評価している(特に村上春樹氏の小説はよく読んでいる)ので、その意見には耳を傾けたいと思う。また国際影響評価学会(IAIA)元会長で日本支部代表の原科幸彦氏(千葉商科大学学長)は、大学の同級生として親しくしているのだが、彼もこの再開発の環境アセスメントの不備を指摘しているのでエールを送っていた。 俯瞰的に見ればこの地域は、東京山の手の大きな緑の十字をなしているのだ。代々木公園と明治神宮から表参道、外苑を経て、東宮御所までの東西の軸と、新宿御苑から、外苑を経て青山墓地につづく南北の軸が交差する十字は、緑が豊かであるだけでなく、美的に整理された景観を有し、商業地としても住宅地としてもきわめて価値が高い。周辺の居住者にとってはこの上なく魅力的な散歩道であり、少し離れた居住者にとっては都心で休日を過ごす格好のハイキングコースでもある。野球の早慶戦が行われる神宮球場もラグビーファンの聖地たる秩父宮ラグビー場も歴史が古く、ジョギングコースとしてもサイクリングコースとしてもよく使われている。 つまり神宮外苑は、単に自然環境として優れているだけでなく、文化的にも意味深い場所なのだ。いわば東京を象徴する「緑と文化の十字路」である。僕もよく行くところで、子供のころの思い出もあり、開発に対する情緒的反対感情をもっている。多くの都民がそうだろう。 しかし開発プランをよく見ると、有名な銀杏並木をはじめ、主要な緑は残されるようだ。伐採される樹木もあるが、植樹によって全体の緑は増える方向であり、オープンスペースは大幅に増えるとされている。これは本当に反対すべきものか、一考を要すると考えた。