生成AIは創作の現場でどう使われている? 「制作コストゼロ」は実現するか
AIはどこまで「絵」を描けるのか?
絵の生成についてはどうだろう。小沢氏は画像系生成AIの使用例として「Adobe Firefly」を挙げた。 「たとえば四角い直方体を3つ書いて『東京の高層ビル』と指定すると、ちゃんと描いてくれます。さらにこうして描かれたものを線画化してAIに食わせると、いろんなアングルで描画してくれる」(小沢氏) ただ、それはあくまで「有能なアシスタント役」だ。もっとこう、キャラクターの作画からゼロイチでやってくれはしないのか? うめの作画担当である妹尾朝子氏の絵柄やタッチを学習させ、そのタッチで何もないところから新しい絵を「描かせる」ことはできないのか? 小沢氏いわく「やってみたことはあるし、けっこういい線いった」。使用したのは「Stable Diffusion + LoRA」。妹尾氏が描いたネーム(コマ割り、キャラクターの配置、構図、セリフなどをラフに書きつけたもの)を下書きの絵レベルにすることは可能だという。 「生成AIが作った下書きに、妹尾が手を入れてちゃんとした下書きにする。その完成下書きに生成AIがペン入れをして、さらに妹尾が手を入れてちゃんとしたペン入れ原稿に仕上げる。交互に作業することで仕上げていくわけです」(小沢氏) ただ、大きな問題点がある。AIに描画の一部を代行させると、最終成果物のクオリティを追い込めないのだ。 「絵って、描きながら考えるものなんですよ。ペン入れしながらキャラクターに感情を入れて、同時に物語を俯瞰する。その過程で、下書きで描いたキャラクターの表情を微妙に直したりもする。その繰り返しで精度を上げていく。一見して直接的なクリエイティブではなさそうなプロセスが、実は最終的なアウトプットに影響するんです」(小沢氏) それゆえに、うめとしては現状、少なくともメインキャラの絵をAIに描いてもらう発想はないという。 「5年先、10年先には、そういうこともAIがやるのかもしれないけど、現時点でAIに全部切り替えるかどうかと言われれば、乱暴だと言わざるをえませんね。うめの場合は、ですが」(小沢氏) ちなみに小林氏が身を置くアニメ制作の現場では「背景の拡張作画」に生成AIを使っている事例がすでにある。 「小学校の教室の背景で、後ろの壁に習字が貼ってあるような背景の一部を、まず人力で描く。それをもとに、フレーム外の描かれていない部分を、何パターンもAIに生成してもらうんです。引き続き習字が壁一面に貼ってある背景もあれば、花瓶など別のものが置いてある背景もある。その中で一番いいものを選ぶんです」(小林氏)