生成AIは創作の現場でどう使われている? 「制作コストゼロ」は実現するか
AIはどこまで「物語」を作れるのか?
ただ正直言って、これらはいずれもアシスタント頭脳的な使い方にすぎない印象だ。もっと直接的に、物語そのものを一から作ってくれたりはしないのだろうか?「膨大な学習データの中から、最適な組み合わせを見つけ出す」ことを得意とする生成AIにしてみれば、古今東西あらゆる「面白い物語」の王道展開パターンを学習した上で、そのバリエーションを瞬時に生成することはお手の物のように思えるが。 しかし小林氏としては、「現時点では、まだ使えない」という。理由は、「あらすじ」と脚本家が書き上げる「映像作品用のシナリオ」は異なるから。 「ぶっちゃけ、組み合わせのパターンであらすじだけは作れます。シナリオの本でもよく言われていますが、物語のあらすじというものはもう世の中に出尽くしていて、10パターンくらいに分類できてしまうという説もある。ただ、あらすじのパターンは有限でも、キャラクターは無限です。なぜなら、キャラクターには感情があるから。1人ひとりには別々の感情があって、それはパターン化できない。人間の感情の機微って、理屈で計算できるほど単純ではなくて、もっと複雑で奥深いということを、シナリオを書きながら日々感じています。だから、学習したデータからキャラクターの“属性”まではパターン化できても、感情の抱き方や変化まではパターン化が難しいのではないでしょうか」(小林氏) それゆえに、感情が「セリフ」や「ト書き」の形で落とし込まれた映像シナリオの生成は、現在の生成AIには難しいのでは、というのが小林氏の意見だ。 ただし、小林氏と同世代で40代のある脚本家は、プロット作りに生成AIを使っているそうだ。当然ながらそのままは使えず、組み換えや修正は必要だが、使い所があると考えるプロの脚本家もいるという事実は興味深い。なお小林氏はこの話を本人から直接聞いたというが、「かなり驚いた」そうだ。
生成AIは「編集者の代わり」
では、漫画はどうなのか。コマ割りや描画はクリエイター自身が担当するとして、その骨子となるストーリーをゼロイチで作ってくれたりはしないのか。 「できるかできないかでいったらできると思います。ただ、ボタン1個押したらポンっとお話が出てくるというよりは、相当な量の“対話”を繰り返す必要がありますね。現在の生成AIだと」(小沢氏) 小沢氏いわく、生成AIにプロットに関する相談をすることもあるが、連載が進み、キャラクターがある程度動き出してくると、その必要性はなくなっていくという。むしろ活用するのは、新連載の序盤だ。 「漫画連載が決まるかどうかは、最初の3話にかかっているんです。編集部は最初の3話を企画会議にかけて、連載するしないを決める。だから僕、本当に売れてる漫画30本くらいのプロット構造をExcelに落として、それぞれの作品をプロットにおこして抽象化した、“無敵の頭3話フレームワーク”を作ってみたんですよ」(小沢氏) なんともワクワクする。さまざまなジャンルの漫画に適用できる、売れる漫画の「典型的な展開」、魔法のレシピというやつだ。ただ、ここまでは完全に人力である。 「で、“無敵の頭3話プロット”を下敷きにした自作の冒頭3話を作るにあたり、3話分の展開順に細かく質問してくれるMyGPTsを作ったんですよ。こちらの構想がぼやっとしていて何となく逃げているシーンや描写を、具体的にどこまでも問い詰めてくれる」(小沢氏) つまり「編集者の代わり」だ。ブレストの相手であり、アイデアのヒントをくれて、作品に穴がないかを指摘してくれる人(AI)、というわけだ。 逆に物語の序盤ではなく、終わった後、つまり「続き」を作ってもらうのに生成AIが向いているのではと考えるのが小林氏だ。 「生成AIは、ヒットした映画やドラマの続編、スピンオフなんかのあらすじ作りは得意だと思います。この時間軸とこの時間軸の間に何が起こった? みたいな質問を投げて、何パターンも作ってもらう。用途としては、映像シナリオというよりその前段階、テレビ局なり映画会社なりのプロデューサーが企画書用に作るあらすじテキストですね」(小林氏) 実際、企画書用の簡単なあらすじは、脚本家ではなく企画者であるプロデューサーが自分で書くのが通例だ。 「企画書は内部資料ですし、どっちみち仮のものだから、シナリオレベルの精度は必要ありません。企画が通ったら、きちんとしたレベルのものを脚本家が書けばいいわけですから。あとはたとえばですが、すでに作品化されているIPのこのキャラとこのキャラを、この世界観の中で共演させたオールスター映画のあらすじは?……とか。もうすでに誰かがやってる気もしますけど(笑)」(小林氏)