生成AIは創作の現場でどう使われている? 「制作コストゼロ」は実現するか
使えなくても「100個のアイデア」は重宝
うめは生成AIを登場間もないころから積極的に使用していることで知られている。 小沢氏がまとめた「漫画制作における生成AI活用の現状:2024春」というリポートは、界隈で話題となったほか、同氏は文化庁の文化審議会著作権分科会法制度小委員会で生成AIについての報告をするほどの生成AI通だ。もともと新しい技術の導入には積極的で、原稿のデジタル入稿、Kindleによる電子版販売、クラウドファンディング、NFT(非代替性トークン)などを、漫画界ではいち早く取り入れてきた。 「そろそろ、創作で生成AIを使っていること自体を売りにする時代は終わりつつある」とまで言う小沢氏の生成AI活用法は多岐にわたる。中でもChatGPTを始めとしたテキスト系のチャットボットは「最もいじっている時間が長い」そうだが、たとえばこんな使い方もある。 「ある部屋の写真を読み込ませて、『この部屋の中にあるもので人を殺すにはどうすればいい?』と聞く。すると、『ペンでこめかみを刺す』といったアイデアを色々と出してくれます」(小沢氏) とはいえ、実際にそのまま使えるアイデアはほとんどない。しかし、意味はある。 「創作に関する打ち合わせって、そういうものじゃないですか。くだらないものからありえない思いつきまで、とにかく全部書き出して、それらとにらめっこしながら何かを思いつく。たった1つのすごいアイデアを出す人より、ダメでもいいから100個のアイデアを出してくれる人のほうが、ありがたい。僕にとってChatGPTの役割って、そういうことです」(小沢氏)
史実や設定をGPTsに“食わせて”おく
一方の小林氏は、LINEでChatGPTが利用できる有料サービス「AIチャットくん」を1年近く前から使っている。仕事での使用例としては、キャラクターのネーミング。自分の好みの傾向とは無関係の名前をランダムに生成してくれるため、マンネリを避けられる。また、日本語圏以外の名前は自力でバリエーションを出しにくいところ、「中世ヨーロッパ風」「18世紀イギリス風」などと指示すれば、それっぽい名前をたくさん提案してくれる点も重宝しているという。 変わったところでは「必殺技」のネーミングだ。 「以前、海外で配信する作品のシナリオを執筆したことがあります。日本の玩具メーカーのタイアップ作品と違って、脚本家がキャラクターの属性や技名も考えなければなりませんでした。それで、たとえば『氷属性の勇者が放つ、かっこいい技の名前を10個考えて』と聞いたりしました。そのまま使えるものは滅多になくて、そこからインスピレーションを受けて、アレンジしたり組み合わせたりして考案したんです」(小林氏) ただ、とある作中に登場させる架空の小道具を考えさせた際は、まったく使えなかった。 「端的に、面白くなかったんです。世界観と微妙に合ってないというか、ありきたりというか、肝心の痒いところに手が届いてない。お前、ちゃんと考えてないだろって感じ(笑)。会議に出しても絶対通らないでしょう。世界観をもっと詳細かつ正確に説明するとか、出てきたものを細かく手直ししていくなどの方法はあると思いますが、そういうことを考えながらやるのは逆に面倒くさい。だったら一から考えたほうが早いと思いました」(小林氏) 小沢氏は、ChatGPTを自分専用にカスタマイズできる有料の「GPTs」機能を使ったカスタムバージョンのChatGPT(MyGPTs)を、現在連載中の『南緯六〇度線の約束』に使っている。同作は「ヒストリカルSF」と銘打っており、戦後の日本やロシアの歴史を下敷きにした作品だ。 「史実に関して調べたことや作り込んだ設定を、GPTsに都度“食わせて”おけば、プロット相談や設定相談の際の対話時に、いちいち時代設定や背景の前提を説明しなくてよくなるんです。作品世界の詳細な年表は別途Excelで作ってあり、それをいちいちローカルで読みにいってもらうようにして」(小沢氏) 作品の世界観ごとGPTsに読み込ませておくわけだ。すると……。 「今度こういう敵を登場させようと思うんだけど、どういう理屈で生まれたんだと思う? みたいな質問ができるんです。その世界観内に存在する、無理のない技術水準や社会システムの中で、整合性のとれる理屈を考えてくれる」(小沢氏)