イエスマンで閣僚を固めるトランプ次期大統領、対中関税60%の先に待ち受ける新たなリスク
11月25日、トランプ次期大統領は米国への麻薬や犯罪の流入が止まるまで、メキシコとカナダにそれぞれ25%の関税を課すと発表した。また、麻薬の成分である「フェンタニル」の違法な製造に中国政府が十分に対応していないとして、中国にも10%の追加関税を課すと自身のSNSで発表している。 【写真】トランプ関税に翻弄される気の毒な大統領 関税とは、どんな外交カードにも使える武器なのだろうか。米国が一方的に関税を課していくと世界はどうなるのか。第一生命経済研究所 首席エコノミストの熊野英生氏に聞いた。(聞き手:長野光、ビデオジャーナリスト) ──トランプ氏は大統領就任初日にメキシコとカナダからのすべての輸入品に25%の関税を課し、中国からの輸入品に追加で10%の関税を課すとSNSで発信しました。 熊野英生氏(以下、熊野):トランプ氏が大統領に就任して最初にやってくる波乱がトランプ関税なのだと再認識しました。同時に、日本もすぐに関税の対象になるという可能性を感じました。 仮に日本からの輸入品に対して10%の関税が課せられた場合、日本は報復関税をかけるのかどうか。これが課題になると思います。痛みを与えられたら相応の痛みを返さないと、他の要求を通すために際限なく次々と関税を課してくる可能性もある。これでは人質を取られ放題という状況です。 かといって、同じように米国からの輸入品に10%の関税をかけたら、米国産の小麦粉がその分だけ値上がりして、結果的に日本の消費者が負担を負うことになる。政治的に慎重な検討が必要になるでしょう。 ──このようにトランプ氏が各国に対し貿易戦争を仕掛けていった場合、結果的に米国が孤立してしまう可能性もあるのではないでしょうか。 熊野:もしメキシコやカナダがやられるように、日本に25%の関税がかけられたと仮定すると、おそらく日本は「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)」の枠組みを使って、台湾、韓国、中国など他のアジアの国々とより緊密にアライアンスを組む可能性があります。 トランプ関税の行く末には、米国のサプライチェーンの孤立があり、米国以外の国々の連携強化があり得ます。 そうなると、次に意識されるのは「中国はどう出るのか」ということです。中国が日本に対して貿易の連携を求めたら、トランプ氏はそれを断るように日本に求めるでしょう。 今は一部のハイテク製品だけを対象に中国に制裁を加えていますが、トランプ氏の発言を見ていると、「BYDが強いから関税をかけろ」という感覚で、必ずしも安全保障とは直結しないEV(電気自動車)なども関税の対象にするかもしれません。 中国をサプライチェーンから外すという目的のために、米国単独ではなく、日本やヨーロッパに対する関税率もうまく操作しながら中国の孤立を誘うのではないでしょうか。トランプ氏の出方によっては、米国の孤立からブロック経済へと変わっていく可能性もあります。