イエスマンで閣僚を固めるトランプ次期大統領、対中関税60%の先に待ち受ける新たなリスク
■ トランプ関税で中国の直接投資が激減したらどうなる? 熊野:経済からは少しズレますが、米国が中国を目の敵にしてバッシングを続けると、中国では国内の不満が高まります。そうなると、習近平政権ははけ口を求めて、あえてシンボリックな意味で言いますが、台湾有事のようなリスクが高まっていくかもしれません。 2017年から2021年にかけて、コロナのパンデミックに陥る前の中国経済は年6%の勢いで成長していました。ですから、米国が段階的に関税をかけても、中国国内で恐慌のようなものは起こりませんでした。 でも、今や中国の成長率は年4%台です。成長率が低下する中、米国が本当に60%、あるいは、それ以上の関税を中国に課せば、中国の直接投資は激減するでしょう。 中国は設備投資のウエイトが非常に高く、直接投資や国内投資が成り立たなくなると、経済成長は厳しくなります。そうなると、習近平政権は経済以外の形で庶民のはけ口を見出すための外交を展開する可能性があります。その時に、トランプ氏が適切な調整ができるのかは疑問です。 バイデン大統領は、どこか「米国が世界を仕切る」という意識を持っていて、必要な介入をしていくタイプでしたが、トランプ氏にはそうした意識はありません。先回りして、世界の問題に対処しようと考えるとは思えない。「日本の防衛は日本でやってください」となると、東アジアでも、混乱が生じやすくなると思います。 熊野英生 第一生命経済研究所首席エコノミスト。 1967年山口県山口市生まれ。1990年日本銀行入行。2000年第一生命経済研究所入社。2008年より日本FP協会評議員を兼任し、現在常務理事。山口県のやまぐち産業戦略アドバイザーも兼任。専門は、金融・財政政策、経済統計、為替など金融市場。金融教育、金融知識普及はライフワーク。過去に生活設計診断システムの基本設計を大手システム会社のSEと共に構築した。 長野光(ながの・ひかる) ビデオジャーナリスト 高校卒業後に渡米、米ラトガーズ大学卒業(専攻は美術)。芸術家のアシスタント、テレビ番組制作会社、日経BPニューヨーク支局記者、市場調査会社などを経て独立。JBpressの動画シリーズ「Straight Talk」リポーター。YouTubeチャンネル「著者が語る」を運営し、本の著者にインタビューしている。
長野 光