イエスマンで閣僚を固めるトランプ次期大統領、対中関税60%の先に待ち受ける新たなリスク
■ トランプ氏のやり方で製造業は本当に回帰するのか? ──メキシコやカナダが米国への麻薬と不法移民の流入を取り締まるまで、25%の関税を課すというのがトランプ氏の主張です。関税が経済とは異なる問題への対応を迫るための道具にされている印象があります。 熊野:経済外交の秩序を破壊する、極めて不適切な行為だと思います。 トランプ氏は最初の政権の時に、メキシコ産の自動車に関税をかけるために「北米自由貿易協定(NAFTA)」を撤廃し、「アメリカ合衆国、メキシコ合衆国及びカナダとの協定(USMCA)」を作りました。 でも、実際のところはメキシコで生産している自動車も他の国で生産したパーツを組み合わせており、どこの国で生産された自動車と言えるかは不明確です。そこで、USMCAでは原産地規則を厳しくするという新たな基準を設けて、米国とメキシコとカナダが一体となる経済という前提のもとに自由貿易のルールを作りました。 そこに麻薬や移民など全く異なる理由を持ち出して、メキシコやカナダからの輸入品の関税を引き上げたら、せっかく2018年に合意したUSMCAの枠組みが完全に崩壊してしまいます。このようにグローバルスタンダードを無視すれば、どこの国からも信用を得られなくなります。 ──USMCAに代わる貿易協定をまた新たに作るつもりなのか、と疑問にも思います。 熊野:今まで性善説でできていたというか、まさか、こんな展開になるとは誰も思っていませんでした。今後は、自由貿易協定を結ぶ時に他のいくつかの国の同意がなければ内容を変えられないようにするイグジットポリシーを入れていかないと、今回のようにゴールポストを動かされてしまうかもしれません。 トランプ氏は経済外交の穴を突いて、かなり暴力的なことをやっています。こういうことがあると、貿易連携自体が組みにくくなっていくと思います。 ──4年のトランプ政権の間に、中国やメキシコに生産拠点を持つ企業が生産拠点を撤退させたり、米国に移したりすると思いますか? 熊野:私が米国の自動車メーカーの経営者でメキシコに生産拠点を持っていたとして、米国がメキシコに強い関税をかけたとしてもメキシコの生産拠点を動かしません。 米国内にある工場の稼働率を上げる可能性はあります。また見かけ上、米国の設備投資を増やすかもしれませんが、主力工場をメキシコから米国に移しはしません。企業もしたたかで、トランプ氏の思惑通りには動かないと思います。